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徹底解説ほつまつたえ講座 改訂版第85回 [2023.12.2]

第十六巻 孕み謹む帯の文 (6)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 はらみつつしむおびのあや (その6)
 孕み謹む帯の文 https://gejirin.com/hotuma16.html
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 またのとひ たみはこさわに かみとのの こなきはいかん
 こもりまた

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 またの問ひ 「民は子多に 守・殿の 子無きは如何ん」
 コモリまた

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■子多 (こさわ)
「子沢山」(こだくさん) の意です。

 ★多・沢 (さわ)
 サユ(冴ゆ)の名詞形で、「高まるさま・栄えるさま」 を表します。
 ソワ(岨)
スワ(諏訪)、“さわ”、“そび”、“そわそわ”、“そよ” などの変態です。


守 (かみ) ■殿 (との)

如何ん (いかん)

 

【概意】
ヒメのまたの問いは、
「民は子沢山なのに、守や殿に子がないのはどうしてでしょう?」
コモリはふたたび答えて、

 

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 せおりつひめの つつしみに たみのなすわさ みおくたき
 はたらくとても こころむく あふらさかんに こおうるそ

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 セオリツ姫の つつしみに 民のなす業 身を砕き
 働くとても 心向く 油 盛んに 子を得るぞ

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■セオリツ姫のつつしみ (せおりつひめのつつしみ)
「セオリツ姫の心遣い/配慮」 などの意ですが、それが具体的にセオリツ姫の
どういう言葉/姿勢/行動をいうのか、残念ながら解けていません。▶セオリツ姫 ▶つつしみ
おそらく セオリツ姫がフタミの岩に置いた マフツの鏡に関わることだろうとは思います。


■心向く (こころむく)
このムクは “むくむく” のムクで、「上がる・高まる・勢いづく」 などが原義です。
“うきうき” の ウク(浮く)の変態です。よって 「心が上向く」 という意になります。

 17アヤで説明されますが、人の “心” は枝分かれして 人体の要である
 六臓と連絡しています。このため両者は緊密に結びつき、心の健康状態と
 体の健康状態は連動します。したがって心が上向いているならば それに
 伴って自動的に肉体のコンディションも上向くわけです。


■油 (あぶら)
ここでは 「命の油」 をいいます。これが潤沢ならば、とーぜん “髄油” も潤沢となります。

 ★命の油 (いのちのあぶら)

 灯し火の 掻き立て 油 減る如く 火勝ち 命の油減る 〈ホ15-5〉

 ★髄油 (ほねあぶら)

 男は地に向ひ とつぐ時 カリの繁波 髄油 〈ホ16-2〉

 

【概意】
セオリツ姫の配慮により、民の行う業は、
その身を砕いて働くといえども心は上向く。
ゆえに “命の油” も “髄油” も潤沢となって子を得るぞ。

 

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 くにかみなとは たみのため こころつくして あふらへり
 こたねまれなり たかきみは しもかうらやみ
 かなはねは おきておうらみ きみそしる これもあたなり

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 国守などは 民のため 心尽して 油減り
 子種まれなり 高き身は 下が羨み
 叶はねば 掟を恨み 君 謗る これも仇なり

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国守 (くにかみ)

■心尽す (こころつくす)
「心をすり減らす・精神を消耗させる」 などの意です。

 ★尽す (つくす)
 ツク(着く・尽く)+ス(する) で、「行き着かす・至らす」 などが原義です。
 またその結果、「費やす・消耗する・使い果たす」 などの意ともなります。


まれ (稀・希)

掟 (おきて)
ここでは 「公の定め・社会制度」 をいいます。


君 (きみ)

謗る (そしる)
「粗末に扱う・見下す・さげすむ」 などが原義です。
ソス+シル の短縮で、ソスは ソ(粗)の母動詞、シルは シリ(尻)の母動詞です。


■仇 (あだ)
アツ(当つ)の名詞形で、「当たるもの・相手・敵対するもの・障害」 などが原義です。
すぐ後に説明されますが、これは具体的には 妬み、羨み、恨み  などの想念が、
生き霊” に転じ、それが他人に障害を働くことをいいます。

 

【概意】
国守などは民のために心をすり減らして 命の油が減り、子種もまれなり。
また 身分の高い者を下の者は羨むが、それが叶わぬ望みと知れば、
こんどは公の制度を恨み、君(司)を非難する。
そうした羨みや恨みの念も 子を得ることの障害となる。

 

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 うちみやの あおめのいふり けおさます
 そはのことしろ まめなれは これおさむめか うらむなり

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 内宮の 青侍のいぶり 気を冷ます
 傍のコトシロ 忠なれば これを下侍が 恨むなり

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 ここからは特に皇宮内での話に移ります。


■内宮 (うちみや)
「皇宮の中心・最奥部」 という意味で、「皇と皇后の住居」 をいいます。
またここを管理・支配するのは皇后であるため、“内宮” は皇后の別称でもあります。

 
■青侍 (あおめ)
「内宮」 の皇と皇后をお世話するため、東・西・南・北の各局(つぼね)に、
スケ(典侍)・ウチメ(内侍)・オシモメ(乙下侍) の3侍女が侍り、各局は交代制で
その任に当たりますが、その下働きとして アオメ(青侍)と呼ばれる30人の
「若い下級侍女」 も内宮に仕えます。ミソメ(三十侍)とも呼ばれます。


■いぶり (燻り)
イブリは アブリ(炙り)の変態で、「上がり/上げ」 を原義とし、
「高ぶること・熱くなること・荒れること・怒ること」 をいいます。
ここでは 「やきもち・嫉妬」 を意味します。

 どうして嫉妬を “焼餅” と言うのでしょう? だぶん 「ふくれる」 からです。


■気を冷ます (けおさます)
ここでは君の女に対する 「気を冷ます・興醒めさせる」 という意です。


コトシロ (▽事知)
この場合は 君の世話を行う各局の 「典侍・内侍・乙下侍」 の3侍女を指します。


忠 (まめ)

■下侍 (さむめ)
「下位の侍女」 という意で、アオメ(青侍)の換言です。
シモメ(下侍)、サグメ(▽下侍) などともいいます。

 サムは サム(冷む)の名詞形で、「下がる・低まる・劣る」 などが原義です。
 ですからサムは シム(凍む)の名詞形 シモ(下)の変態です。
 おそらく “気を冷ます” の サマス に語呂を合せて、サムメと表現しています。

 

【概意】
内宮の青侍たちの嫉妬は君を興醒めさせる。
側近でお世話する典侍・内侍・乙下侍がまめなので、
これを若い青侍たちが恨むのである。

 

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 きみかめくみも ついわすれ うらみねたむの にはさくら
 さかすはしれよ よろたみの うらめんめとの よろさくら
 あめにうゑてそ おろかめか ねたむいそらの かなつゑに
 こたねうたれて なかれゆく あるはかたわと なすいそら

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 君が恵みも つい忘れ 恨み妬むの 庭桜
 咲かずば知れよ 万民の 恨めん侍殿 万桜
 天に植えてぞ おろか女が 妬むイソラの 金杖に
 子種打たれて 流れゆく 或は片端と なすイソラ

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■庭桜 (にはざくら)
「庭の花盛り・宮廷の華やぎ」 という意で、「皇宮に仕える侍女たち」 を表す喩えです。


■咲かずば (さかずば)
「我が身の花が咲かないならば」 という意です。
“花が咲く” というのは、ここでは 「君の子を生むこと」 をいいます。


■恨めん (うらめん)
ウラメル(恨める)の音便で、ウラメルは ウラム(恨む)の “終止形+エル” の形の連体形です。


■侍殿 (めどの)
「皇宮に仕える侍女たちが控える殿」 の意で、ツボネ(局)の換言です。
この場合は そこに控える 「侍女御女中おつぼねさま」 をいい、
具体的には 「典侍・内侍・乙下侍・青侍」 です。


■万桜 (よろざくら)
ヨロ(万・▽色)は 「多数・いろいろ」 を意味します。
サクラ(桜)は サカリ(盛り) の変態で、「花盛りの御女中」 をいう喩えです。


■天 (あめ)
このアメは 「上」 が原義で、「御上・中央政府・朝廷」 を意味しますが、
ここでは特に 「皇宮・宮廷」 をいいます。


■おろか女 (おろかめ)
オロカは オル(折る)+カ(▽如) の意で、「(心が) 折れ曲った女」 という意です。
この場合は特に 「他人の境遇を妬んで恨む女」 をいいます。


■妬むイソラ (ねたむいそら)
「妬む想いが変化(へんげ)したイソラ」 という意です。 ▶イソラ


■金杖 (かなづゑ)
「金属製の杖」 という意で、それに打たれた時の 「強い衝撃」 を表します。
この場合は 「イソラの干渉・支障」 を金杖に喩えています。


■子種 (こだね)
「子の種・子のもと」 の意で、母の腹に宿る 「胚・胎芽・胎児」 をいいます。 ▶種

 

【概意】
君の恵みもつい忘れて、恨み妬むの庭桜たちよ。
我が身の花が咲かぬなら知るが良いぞ。万民がうらめしく思う御女中ゆえに、
万の桜を宮廷に植えても、折れ曲った女の妬みが変じたイソラの金杖に
子の種が打たれて流れゆくのである。あるいは孕み子を片端となすもイソラぞ。

 

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 ねたむそのいき ひよろみち むれてうろこの おろちなす
 たましまのひま うかかひて こつほにいりて はらみこお
 かみくたくゆえ たねならす かたわうむなり

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 妬むその息 一万三千 群れて鱗の 折霊 生す
 玉島の隙 窺ひて 子壺に入りて 孕み子を
 噛み砕くゆえ 種成らず 片端生むなり

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■妬むその息一万三千 (ねたむそのいきひよろみち)
「人を妬む者の呼吸数は一日あたり13,000回」 という意です。
これは妬みに限らず、ねじ曲った想いを持つ人全般をいうものと思います。
普通の男性は13,680回、女性は13,186回ですから、少し数が足りません。

 男のイキス 万三千六百八十 女のイキス 万三千百八六 〈ホ16-3〉

ハルナハハミチに対してアマテルが創った サツサつつ歌 の、“ハナケ充つ足らず” とは
このことを言ってます。

 さすら手も ハタレもハナケ 充つ足らず 〈ホ8-6〉


■鱗の折霊 (うろこのおろち)
ウロコとは 「多数の小片」 という意ですが、ここでは “13,000の妬みの息” をウロコに喩え、
つまり 「13,000の妬みの息がそれぞれ鱗の一片となり、その鱗が集合して折霊が生る」
という意です。 ▶折霊(おろち)
また “鱗の折霊” は 鱗の蛇 (爬虫類のヘビ) を連想させるための表現でもあると思います。

 ★鱗 (うろこ)
 ウロ(▽万)+コ(子・小・個) で、ウロは ヨロ(万)、イロ(色) の変態です。
 「多数に分れるさま・多数の小片」 を意味します。


■玉島の隙 (たましまのひま)
「恥丘の裂け目」 の意で、タマシマガワ(玉島川) の同義語です。 ▶玉島

 ★隙・暇 (ひま)
 ヒムの名詞形で、ヒムは ヒル(放る)の変態。
 「放れ・分かれ・空き」 などが原義で、スキ(隙)イトマ(暇) と同義です。


■子壺 (こつぼ)
コミヤ(子宮)と同じです。“玉島川の内宮” とも呼ばれます。

 ★壺 (つぼ)
 ツメ(詰め・集め)、ツモ(▽積)の変態で、この場合は 「詰める容器」 を意味します。


種成る (たねなる)

 

【概意】
人を妬む者の息は13,000回。
13,000の妬みの息はそれぞれ鱗の一片となり、群れ集まって折霊を生す。
この折霊が玉島の隙を窺って子壺に入り込み、孕み子を噛み砕くゆえ
子の種は成就せず、あるいは片端を生むのである。

 

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 まつしきは およはぬとみお うらやみて
 うらみのあたに たねほろふ ひとおねためは ひにみたひ
 ほのほくらひて みもやする ねたむねたまる みなとかそ

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 貧しきは 及ばぬ富を 羨みて
 恨みの仇に 種滅ぶ 人を妬めば 日に三度
 炎 食らひて 身も痩する 妬む妬まる みな咎ぞ

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■貧しき (まづしき)
マヅシ(貧し)の連体形で、名詞化して 「貧しき者」 の意となります。
マヅシ(貧し)は 現代語のマヅイ(不味い・拙い)の古形で、「曲る如し・劣る如し」 が原義です。
この場合は “経済的貧困者” でも意味は通りますが、「心貧しき者・心の曲った者・愚かな者」
の意に取りたいと思います。


■富 (とみ)
トム(富む)の名詞形です。これも今日的には「財貨の集積」 をイメージしますが、
それに限定されず、広く 「高まり・栄え・勢い・豊潤・増進」 などを意味します。
解釈の難しいところですが、ここでは 「君の子を生むこと」 を “富” と呼んでいる
可能性があります。


■恨みの仇 (うらみのあだ)
「恨みの想いが転じて生じる敵」 という意で、「折霊イソラ」 をいいます。 ▶仇(あだ)


■日に三度炎食らふ (ひにみたびほのほくらふ)
邪霊の干渉を受ける者が患うという 「1日3度の発作的な発熱・熱狂」 をいい、
オコリビ(瘧火)ミノホ(三の火)、ヒミノホノホ(日三の炎) などとも呼ばれます。

・ワザに燃え点く 瘧火の 日々に三度の 悩みあり 〈ホ8-2〉
・斬らば三の火に 悩まんぞ 人成る迄は 助け置き 〈ホ8-7〉
・炎も逃れ 幸振る 神の恵みと 散々拝む     〈ホ8-8〉
・汝 今 日三の炎を 絶つべしぞ           〈ホ28〉


■妬む妬まるみな咎ぞ (ねたむねたまるみなとがぞ)
“同類が相求む” のであるから、「妬むも妬まれるも、どちらも誤ちである」 という意です。
つまり、妬む側と妬まれる側は 「似た者同士」 だということです。 ▶咎(とが)

 

【概意】
心の折れ曲る者は及ばぬ栄えを羨み、その恨みが転じて生じる仇に子種が滅ぶ。
人を妬めば 1日3度の炎を食らって身も痩せる。妬むと妬まれる、どちらも誤ちぞ。

 

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 たとえははへる あおめたち ゐいろのはなそ そのきみの
 こころあおきは あおにめて きなるははなの きおめてし
 あかきははなの あかにめて しろきははなの しろにめて
 くろきははなの くろにめす おなしこころに あいもとむ

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 喩えば侍る 青侍たち 五色の花ぞ その君の
 心青きは 青に愛で 黄なるば花の 黄を愛でし
 赤きは花の 赤に愛で 白きは花の 白に愛で
 黒きは花の 黒に愛す 同じ心に 合い求む

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■愛づ (めづ) ■愛す (めす)
ミス(見す)、メス(召す) などの変態で、いずれも 「(心が)寄る・(心を)寄せる」 が原義です。


合い求む (あいもとむ)

 

【概意】
喩えるならば、君に侍る青侍たちは5色の花である。
その君の心が青ければ 青き花に心を寄せ、黄ならば黄の花を愛でる如し。
赤ければ赤き花に寄り、白ければ白き花に寄り、黒ければ黒き花に寄る。
同じ心に合い求む。


 「同類相求む」 の法則の説明です。

 

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 きみのこころと わかはなと あふやあわぬや あえしらす
 てれはうらむな あけらるも ゑもへもよらす もとむなり
 てれはめすとも いくたひも おそれてのちは うらみなし
 つつしみはこれ

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 君の心と 我が花と 合ふや合わぬや あえ知らず
 てれば恨むな 空けらるも 上も辺も揺らず もとむなり
 てれば召すとも 幾度も 畏れて後は 恨みなし
 つつしみはこれ

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■あえ知らず (あえしらず)
アエは打消の語を伴いますと、「〜できない」 の意を主動詞に添えます。
“エ(得・能) 〜ズ” と同じです。ここでは 「知り得ない・わからない」 の意となります。


てれば (照れば)

■空けらる (あけらる)
アク(空く)+ラル(受身) で、アクは 「距離を空ける・避ける・疎む」 などの意です。


■上も辺も揺らず (ゑもへもよらず)
「上にも下にも揺れずに」 という意です。 ▶揺る(よる)
つまり 「ぶれることなく一途に」 ということです。


もとむ (▽纏む・求む)
ここでは 「纏い付く・侍る・仕える」 などの意です。


■畏る・恐る・怖る (おそる)
オス(怖ず・▽乙す)オル(下る) の短縮で、「気が引ける・気後れする」 などが原義です。
この場合は「おそれ多く思う・もったいなく思う・ありがたく思う」 などの意を表しますが、
この意味に限り、当講座では “畏る” と当てます。


つつしみ (慎み・謹み)

 

【概意】
君の心と自分の花の色とが 合うか合わぬかわからない。
それなら恨むな。疎まれてもぶれることなく一途に仕えるべし。
また 君に召されたとしても、その度ごとに恐れ多いことと感謝して、
後は <君が他の花に移っても> 恨みっこなし。心すべきはこれなり。

 

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 もろひめら まさにしるへし
 いろのはな ひとたひめてて はやちれは ちりとすてられ
 よそのはな めすときはその はなさかり
 つらつらおもえ みのはなも ひともうつれは ちるはなそ
 たれさしうらむ ひともなし

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 諸姫ら 正に知るべし
 色の花 ひとたび愛でて 早や散れば 塵と捨てられ
 よその花 召す時はその 花盛り
 つらつら思え 満の花も 人も移れば 散る花ぞ
 誰指し恨む 人も無し

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つらつら

■満の花 (みのはな)
「満ちた花・満開の花・盛りの花」 などの意です。


■移る (うつる)
ここでは ウツロフ(移ろふ)と同義です。「移り行く・変化する」 という原義ですが、
「盛りが過ぎる・衰える・散る」 などの意もあります。

 

【概意】
諸姫たちよ 正に知るべし。
色とりどりの花も一度愛でて 早や散れば 塵と捨てられ、
よその花を召す時はその花盛り。よくよく考えてみよ。
今が盛りの花であれ人であれ、時が移れば いずれ散りゆく花ぞ。
<それが自然の節理ならば> 誰を指し恨む理由も無い。

 

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 もしあやまれは たねたちて みとかめあれと
 そのひとは またたちもたす つゑうたす
 ひとうちころす ゆえもなし

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 もし誤れば 種 絶ちて 身咎めあれど
 その人は まだ太刀持たず 杖打たず
 他人打ち殺す 故も無し

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■種絶つ (たねたつ)
自分の恨みがイソラ(=折霊)に転じて、他人の 「子種を噛み殺す」 ということです。

・おろか女が 妬むイソラの 金杖に 子種打たれて 流れゆく〈ホ16-6〉
・妬むその息 一万三千 群れて鱗の 折霊生す 玉島の隙 窺ひて
 子壺に入りて 孕み子を 噛み砕くゆえ 種成らず     〈ホ16-6〉


■身咎め (みとがめ)
「我が身への咎め・自分に対する罰」 という意です。
これは17アヤで詳しく説かれますが、「マス鏡の道」 と呼ばれ、
仏教風に言えば 「自業自得因果応報」 です。

 ★咎め (とがめ)
 トガム(咎む)の名詞形で、「反すること・そむき・反動・報い」 などを意味します。


太刀 (たち)

 

【概意】
もし誤れば、<自分の恨みから生じたイソラが> 他人の子種を絶ってしまい、
その咎めは いずれ我が身に返ってくるが、子種を絶たれた人は
<それを知らずにいるため>、その時はまだ <仕返しのため> 太刀を持つでもなく、
杖で打つでもなく、人を打ち殺す理由もない。

 

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 めはひとみちに おもえとも ねたみわつらふ むねのほか
 おろちとなりて こたねかむ さわりのそかん よつきふみ

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 女は一道に 思えども 妬み煩ふ 胸の火が
 折霊と生りて 子種噛む 障り除かん 代嗣文

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一道 (ひとみち)
イチヅ(一途)、ヒトスヂ(一筋)、イチロ(一路) と同じです。


煩ふ・患ふ (わづらふ)
マツラフ(纏らふ・服ふ)、マツワル(纏わる)、マトワル(纏わる) などの変態で、
「交わる・まとい付く・絡み付く」 などの意です。ですから今とは少し意味が違います。
“妬み煩ふ” は 「妬みがまとわり付く」 という意です。


■胸の火 (むねのほ)
ムネ(胸・棟・宗)は 「頂・中心・核心」 を表し、ココロ(心)の換言です。
ホ(火)は 「めらめらと、熱く、激しいさま」 を表します。 ▶火(ほ)
ですから 「めらめらと燃えさかる怨念の炎」 というような意です。


障り (さわり)

■代嗣文 (よつぎふみ)
詳しくは語られていませんが、代嗣社(よつぎやしろ)に 嗣子となるべき者の魂魄を
収容保護し、この文によって子種を噛む折霊の障りを除くものと思われます。

 

【概意】
女は一途に思えども、妬みのからまる胸の火が、折霊となって子種を噛む。
その障りを除くのが “代嗣文” である。

 

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 つつしむあやの はなとはな うてはちるなり
 もろともに つねにつつしみ なわすれそこれ

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 つつしむあやの 花と花 打てば散るなり
 諸共に 常につつしみ な忘れそこれ

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■つつしむあや
ツツシム(慎む・謹む)は 「心を配る・気遣う・配慮する・留意する」などの意です。
アヤは アユ(肖ゆ)の名詞形で、「合い/合わせ・まじえ・かわし・相互」 などの意を表します。
ですから 「つつしみ合い・心の配り合い・互いの気遣い」 ということです。


■打つ (うつ)
ここでは 「当たる・ぶつかる・たたかう」 などの意です。

 

【概意】
互いに気遣い合う花と花であるべし。
ぶつかればどちらの花も散るのである。
諸共に 常に “つつしみ”、これを忘れるなよ。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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