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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第50回 [2023.9.24]

第十巻 カシマ直ち 連り鯛の文 (2)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 かしまたちつりたいのあや (その2)
 カシマ直ち 連り鯛の文 https://gejirin.com/hotuma10.html
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 つかはすひとは あまくにの あめわかひこと きわまりて
 たかみむすひか かこゆみと ははやたまひて むけしむる

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 遣す人は アマ国の アメワカヒコと 極まりて
 タカミムスビが カゴ弓と ハハ矢賜ひて 平けしむる

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アマ国 (あまくに)

■アメワカヒコ
美濃国の領主 アマクニタマ の子です。記紀には 天若日子/天稚彦 と記されます。
ワカ姫から “シタテル姫” を襲名した オクラ姫 の兄弟です。


 イサナギ ┌ソサノヲ─オホナムチ┌クシヒコ
   ├──┤      ├───┼タカヒコネ
 イサナミ └アマテル─タケコ  └タカコ (2代目タカテル姫)
         │         
       ┌ナカコ        
 カナヤマヒコ┴───アマクニタマ┬アメワカヒコ
                 │
                 └オクラ姫 (2代目シタテル姫)


 天雅神社 (あまわかじんじゃ)
 京都府京都市右京区京北下熊田町萱ノ谷17。 
 現在の祭神:天稚彦命、天津国玉命、下照姫命
 <筆者注> この神社は祭神の親子関係を正確に保存しています。
      天稚彦命:本人 天津国玉命:父 下照姫命:姉妹


カゴ弓 (かごゆみ) ■ハハ矢 (ははや)
六ハタレ の祓いの際、アマテルが武将達に カゴ弓 と ハハ矢 を授けていますが、
カゴ弓 と ハハ矢 には 「征夷大将軍の証」 としての意味があったようです。

 禊司を カナサキに フツヌシ副えて ミカツチも 勇し合わせ 打たしむる
 
陽陰のカゴ弓 ハハ矢添え 「ハタレ破れ」 と 賜ひけり 
〈ホ8-2〉

 

【概意】
遣わす人は美濃国のアメワカヒコと極まり、
タカミムスビがカゴ弓とハハ矢を授けて平定せしめる。



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 このかみもまた まめならす たかてるひめお めとりつつ
 あしはらくにお のらんとて やとせふるまて かえらねは
 ななしのききす といくたす

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 この守もまた 忠 成らず タカテル姫を 娶りつつ
 アシハラ国を 乗らんとて 八年経る迄 帰らねば
 名無しの雉子 訪い下す

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守 (かみ) ■忠 (まめ)

■タカテル姫 (たかてるひめ)
オホナムチの娘の タカコ を指します。
タカコは ワカ姫から “タカテル” の名を譲り受けましたが、同じ時に、
美濃守アマクニタマの オクラ姫 も、“シタテル” の名を譲り受けているためか、
後世 両者は混同され、あるいは取り違えられています。

 イサナギ ┌ソサノヲ─オホナムチ┌クシヒコ
   ├──┤      ├───┼タカヒコネ
 イサナミ └アマテル─タケコ  └タカコ (2代目タカテル姫)
         │         │
       ┌ナカコ        │
 カナヤマヒコ┴───アマクニタマ┬アメワカヒコ
                 │
                 └オクラ姫 (2代目シタテル姫)


■アシハラ国 (あしはらくに:葦原国・▽朝原国)
「中央政府の国・朝廷の国」 という意で、中国(なかくに) の別名です。 ▶アシハラ


■乗らん・▽和らん (のらん)
ノル(乗る・▽和る)+ン(意志) で、ノルは 「合う/合わす」 が原義です。
この場合は 「覆いかぶさる・乗っ取る・取り込む・併合する」 などの意です。


雉子 (きぎす)

■訪い下す (といくだす)
トフ(訪ふ)+クダス(下す) の連結です。

 ★下る・降る (くだる) ★下す・降す (くだす)
 クツ(朽つ)タル(垂る) / タス(▽垂す・堕す) の短縮で、
 いずれも 「下・末・隅に 行く/行かす」 が原義です。
 電車の上り/下りと同じで、中央から地方を訪う場合は 「くだる/くだす」、
 地方から中央を訪う場合は 「のぼる/のぼす」 と表現します。

 

【概意】
この守もまた一筋を通せなかった。
タカテル姫を娶りつつ、朝廷国を取り込もうと、8年経っても帰らない。
それゆえ名もない伝令使を訪い下す。



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 あめわかひこか かとのまえ かつらのすえに
 しわさみて ほろろほろろと なくおきき 
 さくめかつけに なもなくて あめおなくやと

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 アメワカヒコが 門の前 桂の末に
 仕業見て ホロロホロロと 鳴くを聞き
 下侍が告げに 「名もなくて 天を泣くや」 と

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■桂の末 (かつらのすえ)
「桂の木の下」 という意ですが、カツラ(桂・鬘) は 「上・高・頭」 が原義で、
スエ(末) は 「下るさま・劣るさま・衰えるさま」 を意味します。
ですから “桂の末” は 「天の守 (=御上の臣) の堕落」 を暗に表します。

 ★末 (すえ・すゑ)
 スユ(饐ゆ) の名詞形で、「下/末/隅にあるさま・劣るさま・衰えるさま」 が原義。
 スイ(垂・衰・睡・酔) や セウ(しょう:小・少) の変態で、短縮形が ス(子・酢) です。


ホロロ
雉子の 悲しみの鳴き声 (泣き声) です。
ホロロは ホロリ の変態で、「ホロホロとくずれ落ちる感じ」 を表します。

 ホロロ・ホロホロ は、実際には キジの羽ばたき (ホロ打ち) の音だといいます。


■下侍 (さぐめ・さくめ)
「下働きの侍女・下女」 をいうと考えます。
サムメ(▽下侍)、シモメ(下侍)、アオメ(青侍) などとも呼ばれます。
サグ+メ(侍) で、サグ は サグ(下ぐ) の名詞形と思います。


天 (あめ)
ここでは 御上の使者である アメワカヒコ を指します。

 

【概意】
アメワカヒコの門前の桂の木の下に、その所業を見た雉子が 「ホロロホロロ」 と鳴く。
それを聞いた下侍の報告に、「名もない伝令使の分際が、天の使者を嘆くのか」 と、



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 わかひこか ははやおいれは むねとほり
 とひてたかみの まへにおち けんけんもなく ちのははや
 たかみむすひは これおみて とかむかえしや わかひこか
 むねにあたりて うせにしお かえしやおそる もとおりや

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 ワカヒコが ハハ矢を射れば 胸通り
 飛びてタカミの 前に落ち “ケンケン” もなく 血のハハ矢
 タカミムスビは これを見て 咎む返し矢 ワカヒコが
 胸に当りて 失せにしを 返し矢恐る もとおりや

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■ケンケン
これは雉子の普通の鳴き声です。 ▶動画


咎む (とがむ)

返し矢 (かえしや)

■失せにし (うせにし)
ウス(失す)+ニ(=なる)+シ(▽如・▽然) で、“失せにける” の換言です。 ▶けり
ウス(失す) は ウツ(棄つ) の変態で、「離れる/離す・なくなる/なくす」 が原義。
ニ は ヌ(助動詞) の連用形で、ヌ は “ナル” の略形。この場合は 「成る・至る」 の意です。


■もとおり (回り・廻り・▽基)

 

【概意】
アメワカヒコがハハ矢を射れば、雉子の胸を貫き、
さらに飛んで <近江の多賀にいる> タカミムスビの前に落ちる。
“ケンケン” と報告することもない血のハハ矢。
タカミムスビはこれを見て、報いの返し矢を射れば、
ワカヒコの胸に当って死に至る。これを以て 「返し矢は恐るべし」 の起源となる。



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 たかてるひめの なくこえの あめにきこえて
 たらちねの はやちにかはね ひきとりて
 もやおつくりて かりもかり

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 タカテル姫の 泣く声の 天に聞えて
 父母の 早ちに屍 引き取りて
 喪屋を造りて 仮殯

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天 (あめ)
「御上・中央政府」 を表し、この場合は アシハラ国 をいいます。
アマワカヒコ の父が治める アマクニ(=美濃) も アシハラ国の中にあります。


■早ちに (はやちに)
ハヤチ は ハヤシ(早し・速し) の名詞形で、「早いさま」 をいいます。
ですから 「はやばやと・早々に」 という意です。

 形容詞の場合に多いのですが、語尾の ‘シ’ を ‘チ’ に変えて名詞化することがあります。
 “ただち”  ”すなわち”  “ひたち” ・・・ ・・・ などがそうです。


■屍 (かばね)
「(霊に) 覆うもの・被せるもの」 を意味し、つまり 「肉体・身体」 のことです。
多くは 「霊が抜けた肉体・亡骸」 をいい、カラ(骸)・オモムロ(骸) とも呼ばれます。
カバネ の音便変化が カバン(鞄) ではないかと考えてます。

 カフ+ハヌ の短縮 “カハヌ” の名詞形で、カフ は  カブス(被す)カバフ(庇ふ) の母動詞。
 ハヌ は ハム(填む) の変態。両語とも 「合わす・入れる・覆う・被せる」 などが原義です。


■喪屋 (もや)
亡骸を土葬する前に、「死者の霊(=魂と魄) を天に送るための屋」 です。 ▶喪(も)
魂は ムナモト(陽の元=太陽) に、魄は ミナモト(陰の元=月) に還ります。

 
■仮殯 (かりもがり)
モガリ(殯) は モカル の名詞形で、モカル は マカル(罷る) の変態です。
ですから モカリ は モ(喪) の同義語で、「還り/還し・送り・あがり」 を意味します。
オクリ(送り)・アガリ(殯) とも呼ばれます。

 あがり【殯】〈広辞苑〉
 「あらき(荒城)」 に同じ。

カリ(仮) というのは、まだこの後に屍(遺体)の送還が残っているからです。
仮殯で 霊(=魂と魄) を天に送った後、屍(遺体)を土に埋めて 黄泉(=冥土) に還します。


 ★仮 (かり)
 カル(借る) の名詞形で、「往き来」 を原義とし、
 「往き来するさま・揺れ動くさま・一時的なさま・決しないさま」 を意味します。

 

【概意】
夫を失ったタカテル姫の泣く声が、アシハラ国にまで聞こえて、
美濃の父母は早々に亡骸を引き取り、喪屋を造って仮送り。



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 おくるかわかり きさりもち にわとりはきし すすめいゐ
 はとはものまさ ささきみそ とひゆふまつり からすつか
 やひやよいたみ もおつとむ

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 送る川雁 キサリ持ち 庭鳥 掃き仕 雀 飯
 鳩は物申 鷦鷯 御衣 鳶 ゆふ纏り 烏 塚
 八日八夜悼み 喪を務む

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■送る (おくる)
仮殯で霊(魂と魄)を天に送った後、屍(遺体)を黄泉(冥土)に送ります。これが本葬です。


■川雁 (かわかり)
カリ(雁) は カモ(鴨)・ケリ(鳧)・ガン(雁) などの変態で、
「足で水を掻いて泳ぐ鳥」 の総称です。カワカリ(川雁) は 「川に棲む水鳥」 をいいます。


■キサリ持ち (きさりもち)
キサリ は 「屍・亡骸・遺体」 の換言と思います。
“キサリ持ち” は 「亡骸を運ぶ者・遺体の運搬人」 という意でしょう。

 ★キサリ (▽帰更)
 キ+サリ で、キ は “ハンドルを切る” という場合の キル の名詞形。
 サリ は サル(更る) の名詞形で、両語とも 「回る・還る・帰還する」 などが原義です。
 ですから 「(魂魄が天に) 還ったもの」 を意味すると考えます。


■掃き仕・掃き師 (はきし)
「清掃する者」 をいいます。シ(仕・師) は スル(為る) の名詞形です。
ここでは 「遺体の洗浄」 をいうのでしょうか。
ハキシは 「清掃器具(箒)」 の意に使われる場合もあります。


■物申 (ものまさ)
マサ は マス(申す) の名詞形で、モウシ(申し) と同じです。
モノマサ は 「物申し」 の意で、「弔辞を申す者」 をいうと考えます。


鷦鷯・捧ぎ (ささぎ・さざき)
ミソササギ(御衣捧ぎ) の略で、今は ミソサザイ と呼ばれます。
「御衣(みそ)を捧ぐ(ささぐ)鳥」 の意と思います。 ▶動画


御衣 (みそ)
ミス(見す) の名詞形で、メシ(召し) の変態です。
「召し物・着るもの・衣裳」 を意味します。ホツマでは ミハ と呼ばれることが多いです。


■ゆふ・ゆう・いふ (▽結・▽斎・木綿)
ユフ(結ふ) の名詞形で、「結ったもの・機・織物・布」 の総称です。
ですから今日の 木綿(ゆう・もめん) を指すわけではありません。

 “人と神を結ふ” の意から、和幣 として用いられることが多いです。


塚 (つか)
ツク(漬く・浸く) の名詞形で、「埋め・埋める所・埋葬地」 を意味します。


悼む・痛む (いたむ)

■努む・務む・勤む (つとむ)
ツツ(▽付つ)+トム(留む) の同義語短縮で、「付いて留まる」 が原義です。
「ひっ付いて何かをする・他にそれずに何かをする・一筋に打ち込む」 などの意を表します。
ツツ は トヅ(閉づ・綴づ) の変態です。

 

【概意】
その後、屍を黄泉に送る。
川雁は亡骸を持ち、庭鳥は清掃夫となり、雀は飯を捧ぐ。
鳩は弔辞を申し、鷦鷯は衣服を、鳶は和幣を供え、烏は塚を成す。
8日8夜その死を悼み、死者の送りに身心を添える。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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