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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第48回 [2023.9.22]

第九巻 八雲打ち 琴つくる文 (6)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 やくもうちことつくるあや (その6)
 八雲打ち 琴つくる文 https://gejirin.com/hotuma09.html
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 くしきねあわの さささきに かかみのふねに のりくるお
 とえとこたえす くゑひこか かんみむすひの ちゐもこの
 をしゑのゆひお もれおつる すくなひこなは これといふ

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 クシキネ アワの サササギに 鏡の船に 乗り来るを
 問えど答えず クヱヒコが 「カンミムスビの 千五百子の
 教えの結ひを 漏れ落つる スクナヒコナは これ」 と言ふ

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クシキネ
ソサノヲの代嗣子 オホナムチ の斎名です。 ▶代嗣

 ソサノヲ┐┌(1)オオヤヒコ
     ├┼(2)オオヤヒメ
 イナタ姫┘├(3)ツマツ姫
      ├(4)コトヤソ
      ├(5)オホナムチ
      ├(6)カツラギヒコトヌシ
      ├(7)オオトシクラムスビ
      └(8)スセリ姫


■アワ ■サササギ
アワは アワ国 の略で、「近江の国」 を指します。
サササギ は ササ(酒)+ササギ(捧ぎ) の短縮で、太古初めて酒を醸して
ウビチニに捧げた 「井の口スクナミ」 の別名と考えます。
ササキ は ササケ(捧げ) の変態で、「醸成」 と 「献上」 の意が重なります。

 沙沙貴神社 (ささきじんじゃ)
 近江国蒲生郡。滋賀県近江八幡市安土町常楽寺1。
 現在の祭神:少彦名命
 <筆者注> もとはスクナミ守を祭っていたと思われますが、現在の祭神は少名彦神です。
      これは名前の近似もありますし、スクナヒコナがこの地に着いたことにも
      関わりがありそうです。

 近江国蒲生郡の一帯は、ササキノゴウ(沙沙貴郷・鷦鷯郷)、ササケノショウ(篠笥庄)、
 ササキノショウ(佐佐木庄) などと呼ばれました。今も 「神乃滴」(かみのしずく)という
 酒が造られていて、沙沙貴神社の御神酒となってるそうです。


■鏡の船 (かがみのふね)
船首に鏡を飾った船で、「御上 (中央政府) の公用船」をいうように思います。 ▶御上
鏡と榊 は徳川時代の “三葉葵” に相当する、御上の権威を示すシンボルでした。
なお この時代には、船で淀川をさかのぼって琵琶湖まで行けました。


■クヱヒコ
クヱヒコは スクナヒコナの出自を オホナムチ(斎名クシキネ) に告げますが、
クヱヒコ本人については何も説明がなく、なぜオホナムチと一緒にいるのかもわかりません。
他文献では 久延毘古・久延彦 と記されます。

 久延彦神社 (くえひこじんじゃ)
 奈良県桜井市三輪大御輪寺98、大神神社末社。 
 現在の祭神:久延毘古命


カンミムスビ

■教えの結ひ (をしゑのゆひ)
ユヒ(結ひ) は 「結び・束ね・縛り・範囲・枠」 などの意です。


■スクナヒコナ
アワのササザキに鏡の船で乗り付けた人物で、カンミムスビの1500人の子の内の
落ちこぼれといいます。記紀には 少名毘古那神/少彦名命 と記されます。

 

【概意】
近江のサササキに御用船で乗り来る者に オホナムチは尋問するが、答えない。
クヱヒコが 「カンミムスビの1500人の子の内、その教えの枠から漏れ落ちる者、
スクナヒコナはこれ」 と言う。



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 くしきねあつく めくむのち ともにつとめて うつしくに
 やめるおいやし とりけもの ほおむしはらひ ふゆおなす

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 クシキネ篤く 恵む後 共に努めて 現し地
 病めるを癒し 鳥獣 蝕虫払い 振ゆをなす

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■現し国・顕国・▽俯し地 (うつしくに)
「物質界・現世・この世」 をいいます。

 ウツシ(現し・顕し)ウツ(▽俯つ) の形容詞形、あるいはその名詞化で、
 「下って凝り固まるさま」 を意味します。これは 天地創造での陰の動き です。
 したがって ウツシ と、クニ(地・国)・ツチ(土・地) は同義語同士の関係です。


■病める (やめる)
ヤム(病む) の連体形です。ここでは名詞化して 「病気・病人」 を意味します。
ヤム は 「曲る・逸れる・外れる・異常となる」 などが原義です。


蝕虫 (ほおむし)

■振ゆ (ふゆ)
フル(振る) の変態の フユ(振ゆ) が そのままの形で名詞化したものです。
「振りまくこと・回しめぐらすこと」 が原義で、「恵み・ほどこし」 の同義語です。
辞書には みたまのふゆ という言葉が載っています。

 

【概意】
オホナムチはスクナヒコナを厚く遇した後、共に努めて、
現世の病める者を癒し、また鳥・獣・害虫を払い、民に恵みをなす。



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 すくなひこなは あわしまの かたかきならひ
 ひなまつり をしゑていたる かたのうら あわしまかみそ

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 スクナヒコナは アワシマの カダカキ習ひ
 雛纏り 教えて至る 加太の浦 “アワシマ神” ぞ

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■アワシマ (▽合州・▽和州)
このアワシマは アワ国 の換言で、「近江の国」 を指します。
シマ(州・島) は 「締め・区分・区画」 が原義です。


カダカキ (葛掻き)

雛纏り (ひなまつり)
スクナヒコナは ヒナマツリ の意義を、カダカキのしらべに乗せて説いて回ったと考えられます。


■加太の浦 (かだのうら)
和歌山県和歌山市の 「加太海岸」 です。

 カダ は クズ(葛) の変態で、「繁茂するもの」 を意味しますが、
 加太の浦の ‘カダ’ は 「ワカメ」 を言うように思います。
 ここは カダメ(加太和布) と呼ばれる 高級ワカメ の特産地だからです。
 もしそうなら 加太の浦 は “わかめ海岸” という意味になります。


■アワシマカミ (淡島神)
スクナヒコナの 贈り名 です。
この アワシマ は 「合島」 の意で、加太の沖にある 友ヶ島 の古名と考えます。
スクナヒコナはカダカキを弾きながら 雛纏りの意義を説いて各地を遊行した後、
アワシマ(=友ヶ島) に到って昇天したようです。
江戸時代の 淡島願人 は、スクナヒコナの遊行のリバイバルでしょう。

 淡島神社 (あわしまじんじゃ)
 紀伊国名草郡。和歌山県和歌山市加太116。
 現在の祭神:少彦名命、大己貴命、息長足姫命
 ・当初は 加太の沖合の友ヶ島のうちの 神島 (淡島) に祀られた。
 ・毎年3月3日、お雛様を白木の舟に乗せて加太の海へ流す雛流し神事が行われる。
  また神の名を針才天女とも伝え、冬に針供養が行われる。

 

【概意】
スクナヒコナはアワ国のカダカキを習い、
そのしらべに乗せて男女和合の意義を教えて回り、
加太の浦に至って “淡島神” となる。



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 おほなむち ひとりめくりて 
 たみのかて けししゆるせは こゑつのり みなはやかれす

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 オホナムチ 一人恵りて
 民の糧 獣肉許せば 肥え募り みな早枯れす

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恵る (めぐる)

糧 (かて)

■獣肉・外肉・曲肉・汚肉 (けしし・がしし)
「ケモノの肉・鳥獣の肉」 をいいます。
アマテルは鳥獣の肉食を厳しく戒めていました。その理由は15アヤで説明されます。
  
 ★ケ・ガ (▽外・▽離・▽曲・▽汚) ★ケモノ (獣・▽外物)
 “ケ” は ケル(蹴る) の名詞形の略、“ガ” は カル(離る) の名詞形の略です。
 どちらも 「離れるさま・逸れるさま・外れるさま」 などが原義です。
 ゆえに ケモノ(▽外物・獣) は 「人以外の動物・外道の生き物」 が原義ですが、
 鳥・魚・這う物・虫 と区別して、「毛に覆われた四つ足」 をいう場合も多いです。

 ★シシ (肉/獣)
 2種類あって、シシ(肉) は “刺身” の サシ の変態で、「(骨に) 差す/付くもの」 が原義。
 シシ(鹿)シス(失す) の名詞形で、「離れたもの・逸れたもの・外れたもの」
 を意味し、ケモノ(▽外物・獣) の換言です。


■肥え (こゑ)
コユ(越ゆ) の名詞形です。この場合は 「必要分を越えて余るさま・肥満」 をいいます。


■募る (つのる)
ツヌ+ノル(乗る・載る) の短縮で、ツヌ は ツナグ(繋ぐ) の母動詞。
両語とも 「合わす・足す・集まる・増す・積もる」 などが原義です。

 

【概意】
その後オホナムチは一人で民を恵んで回るが、
糧として獣肉を許したため、肥えが募ってみな早死であった。



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 そはほむし くしきねはせて これおとふ
 したてるひめの をしえくさ ならいかえりて をしくさに
 あふけはほをの むしさりて

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 稲蝕虫 クシキネ馳せて これを問ふ
 シタテル姫の 教え種 習い帰りて 押草に
 扇げば蝕の 虫去りて

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■稲蝕虫 (そはほむし)
ソ+ハホムシ(▽蝕虫) で、ソ は ソロ の短縮です。


■シタテル姫の教え種 (したてるひめのをしえぐさ)
シタテル姫が考案した 「稲蝕虫を追い払う方法」 をいい、押草 で扇ぎながら、
32音の祓いの歌を 360回歌うという まじないです。 ▶シタテル姫 ▶教え種

・田の東に立ちて 押草に 扇ぐワカ姫 歌詠みて 祓ひ給えば 虫去るを 〈ホ1-4〉
・“田根・畑根 大麦・小麦・盛豆 大豆・小豆らの そろ葉も蝕めぞ 虫もみな締む”
 〈ホ1-4〉
繰り返し 三百六十歌ひ 響ませば 虫 飛び去りて 西の海 〈ホ1-4〉

 

【概意】
稲蝕虫が発生すると、クシキネは <ヤスカワへ> 走ってこれを問う。
シタテル姫の教え種を習い帰り、押草に扇げば、蝕虫は去り、


 ★参考:古語拾遺 〈葛木御歳神社の由緒 より部分引用〉
 神代、大地主神 が田を作る日に、農夫に牛の肉をご馳走した。 その事に怒った 御歳神
 田にいなごを放ち苗の葉を喰い枯らしてしまった。そこで大地主神は、白猪・白馬・白鶏を
 献上して謝したところ、そのお怒りが解けたばかりでなく、御歳神は 「麻柄で糸巻きを作り、
 麻の葉で掃い、天押草 で押し、烏扇 であおぎなさい。 それでも出て行かなければ、牛の肉を
 溝口に置き、男茎形を作ってこれに加え、(これは男性の印を意味し、その神の怒りを鎮め、
 陰陽の和合を称えたものである) ジュズダマ・キハジカミ・クルミの葉と塩を畔に置きなさい」
 と教えてくださったので、その通りにすれば苗の葉がまた茂って豊作になった。

   大地主神=オホナムチ、御歳神=シタテル姫 として読んでみてください。



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 やはりわかやき みのるゆえ むすめたかこお たてまつる
 あまくにたまの おくらひめ これもささけて つかえしむ
 したてるひめは ふたあおめ めしてたのしむ やくもうち
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 やはり若やぎ 実るゆえ 娘タカコを 奉る
 アマクニタマの オクラ姫 これも捧げて 仕えしむ
 シタテル姫は 二青侍 召して楽しむ 八雲打ち
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タカコ

  ソサノヲ┐      
      ├オホナムチ┐┌1.クシヒコ
  イナタ姫┘     ││
            ├┼2.タカヒコネ
  アマテル┐     ││
      ├─タケコ─┘└3.タカコ
  ハヤコ─┘


■アマクニタマ
カナヤマヒコ(金山彦) の子で、美濃国を治める領主です。
記紀には 天津国玉神/天国玉 と記されます。

 ★アマクニ (▽上国・天国)
 アマは アム(▽上む) の名詞形。「上の国・高い国・山国」 を意味し、「美濃国」 の換言です。

 ★タマ (玉・珠・▽頭・▽尊)
 ここでは 「上にあるもの・頭・トップ・主」 などの意です。

 ★美濃 (みの)
 ミネ(峰) や ムネ(棟) の変態で、「高い所」 を意味します。


■オクラ姫 (おくらひめ)
アマクニタマの娘で、大倉姫/大倉比売 の名で神社に祀られています。

        アマテル
         ┃
       ┌ナカコ
 カナヤマヒコ┴───アマクニタマ┬アメワカヒコ
                 │
                 └オクラ姫

 大倉姫神社/大倉比売神社 (おおくらひめじんじゃ)
 大和国葛上郡。奈良県御所市古瀬377/奈良県御所市戸毛1610。
 現在の祭神:大倉比売命
 ・2つの論社あり。


■青侍 (あおめ)
「若い侍女」 をいい、“二青侍” とは タカコ と オクラ姫 を指します。


八雲打ち (やくもうち)

 

【概意】
元通り若やいで実を結んだため、娘タカコを侍女として奉る。
アマクニタマも娘のオクラ姫を捧げて仕えさせる。
シタテル姫(=ワカ姫・ヒルコ)は この2青侍を召して、八雲打ちの琴を楽しむ。



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 おほなむちには くしひこお おおものぬしの かわりとて
 ことしろぬしと つかゑしめ おのはいつもに をしゆるに
 ひふみむもやそ ふたわらの ひもろけかそえ

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 オホナムチには クシヒコを オオモノヌシの 代りとて
 コトシロヌシと 仕えしめ 己はイヅモに 教ゆるに
 一二三六百八十 二俵の ヒモロケ数え

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クシヒコ

  ソサノヲ┐      
      ├オホナムチ┐┌1.クシヒコ
  イナタ姫┘     ││
            ├┼2.タカヒコネ
  アマテル┐     ││
      ├─タケコ─┘└3.タカコ
  ハヤコ─┘


オオモノヌシ
この時点では オホナムチ(斎名クシキネ) が この職に就いています。


■コトシロヌシ (▽事知主・事代主)
「コトシロ(▽事知)の主・コトシロを司る者」 の意で、名前こそ異なりますが、
オオモノヌシと職掌は同じです。この時点ではオホナムチの私的な代理だったようですが、
後には制度化されて、公式にオオモノヌシの代理職となります。
ホツマには 2人のコトシロヌシが登場します。記紀は 事代主~ と記し、個人名として扱います。

 ★コトシロ (▽事知・▽事領)
 「事を知行する者」 の意で、語義としては “知事”  “領事” に相当しますが、
 ようするに 「実際に仕事を処理する臣や侍女・担当職員」 をいいます。


イヅモ (出雲)
サホコチタル国 の新名で、オホナムチがその知行者(=領主)です。

 オホナムチはオオモノヌシですから、自領のイヅモを知行しながらも、
 都の中央政府に身を置いて、国家の政務を司るべき立場にあります。


俵 (たわら)
タハル の名詞形で、タハルは タバヌ(束ぬ) の変態。


■ヒモロケ (▽斎供)
「捧げるお供え・献上の品・上納品」 の意で、この場合は 「貢の米」 をいいます。 ▶貢
辞書には ヒモロギ(胙・膰) とあります。

 ヒモロ+ケ(供) で、ヒモロ は ヒモル の名詞形です。
 ヒモル は イモフ(斎ふ)イワフ(斎ふ・祝ふ) などの変態で、
 「上げる・捧げる・敬う・尊ぶ」 などが原義です。

 

【概意】
オホナムチは クシヒコを オオモノヌシの代理として、
コトシロヌシの名で中央政府に仕えさせ、自分は知行地のイヅモに行き、
民を教育すれば、12万3千6百82俵に及ぶ年貢米を数え、



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 たねふくろ つちはつちかふ をんたから
 うゑたすかても くらにみつ
 あめかせひてり みのらねと あたたらくはり うゑさせす
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 種袋 槌は培ふ 御宝
 飢え治す糧も 倉に満つ
 雨・風・日照り 実らねど アタタラ配り 飢えさせず
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■種袋 (たねぶくろ)
種袋をかついで槌を持つ姿 は、大国主(=ダイコク様) を思い出させますが、
これはどうやら オホナムチ を描いたものであることが この記から判ります。
では 大国主=オホナムチ なのかというと、それは後世の誤解なのです。
“大国主” は ニニキネが クシヒコ に賜った尊名であることが、21アヤで判明します。


槌 (つち・つつ)
御宝(=民) を “つちかふ” 心を表す モノザネ です。

 ★培ふ (つちかふ)
 ツツ+カフ(飼ふ) の同義語連結で、ツツ は ツヅル(綴る) の母動詞。
 両語とも 「合わす・直す・治す・足す・助ける」 などが原義で、
 「世話して調える」 という意です。


御宝 (をんたから)

■アタタラ (▽充足)
アツ(当つ・充つ)タル(足る) の名詞形で、「充てがって足らすこと/物」 をいいます。
これは 「食糧の配給・配給の食糧」 を意味します。

 

【概意】
種袋をかついで、民を培う槌を持ち、飢えを賄う糧も倉に満ちる。
雨・風・日照りで実りがなくとも、アタタラを配って飢えさせず。



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 のちにわかひめ ひたるとき やくもゐすすき かたかきお
 ゆつることのね たかひめお たかてるとなし わかうたの
 くもくしふみは おくらひめ さつけてなおも したてると
 なしてわかくに たまつしま としのりかみと たたゑます

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 後にワカ姫 ひたる時 八雲・五濯ぎ カダカキを
 譲る ことの根 タカ姫を タカテルとなし ワカ歌の
 クモクシ文は オクラ姫 授けて名をも シタテルと
 なしてワカ国 タマツ島 “年乗り神” と 称えます

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■ワカ姫 (わかひめ)
ヒルコ の別名で、シタテル姫 とも呼ばれます。
ワカ姫は 枯れた稲を 「ワカの歌(▽和の歌) で直し調えた姫」 という意です。
この姫は 歌の魔術師であると同時に、琴の名手でもありました。


■ひたる
ヒツ(▽秀つ)+タル(▽達る) の短縮で、イタル(至る) の変態です。
「行き着く・あがる・終る」などを原義とし、「一人生を満了して天に還る」 という意です。


■八雲 (やくも) ■五濯ぎ (ゐすすぎ)
ヤクモ は ヤクモウチ(八雲打ち) の略。
ヰススギ(五濯ぎ) は 「五絃の濯ぎ」 の意で、イスギウチ(濯ぎ打ち) の別名です。


■ことの根 (ことのね:琴の根/言の根)
ネ(根) は ここでは 「本質・源・精髄・奥義」 などを意味します。
コトは 「琴」 と 「言」 の2つが重なります。すなわち 「琴の奥義」 と 「言の奥義」 です。
言の奥義とは つまり 「歌の奥義」 ということです。


■タカ姫 (たかひめ)
ワカ姫 (=シタテル姫、斎名ヒルコ) に侍女として奉られた タカコ の換言です。


■タカテル (高照)
これも ワカ姫(=ヒルコ) の別名の一つです。
“日が高く照る時=昼” を意味し、昼に生れた “ヒルコ” を言い換えた名です。
タカ姫は この名を譲られ、2代目タカテル姫 となります。

 後に一姫を 生む時に 昼なれば名も “ヒルコ姫” 〈ミ1-4〉


ワカ歌 (わかうた・わかのうた)

■クモクシ文 (くもくしふみ:雲薬文)
クモ(雲・▽隈)+クシ(▽薬)+フミ(文)、「汚穢隈を改める伝え」 という意です。
クシ は クス(薬) の変態、クモクシ は イワクス(忌薬) の換言です。
歌の力によって 「汚穢隈を祓う奥義の伝え」 です。
 
 ★クシ (▽薬) ★クス (▽薬す・▽越す)
 クシ は クス の名詞形で、クス は コス(越す) の変態です。
 「回す・巡らす・動かす・改める・更新する」 などが原義です。


■オクラ姫 (おくらひめ) ■シタテル
タカ姫と同じく、ワカ姫の侍女として捧げられた オクラ姫 は、
シタテル” の名を譲られて 2代目シタテル姫となり、クモクシ文 を授かります。

 大倉姫神社/大倉比売神社 (おおくらひめじんじゃ)
 大和国葛上郡。奈良県御所市古瀬377/奈良県御所市戸毛1610。
 現在の祭神:大倉比売命
 ・一名を雲櫛社と言う。
 <筆者注> “雲櫛” は現在 ウングシ と読まれていますが、クモクシ だったわけです。


ワカ国 (わかくに・わかのくに)

タマツ島 (たまつしま:玉津島)
ワカ姫は タマツ島の タマツ宮 を住まいとしていました。


■年乗り神 (としのりかみ)
ワカ姫(=ヒルコ) の 贈り名 です。
トシ(年・歳)+ノリ(乗り) は、「実が乗る神・みのりの神」 を意味します。
ワカ姫は 押草ワカの歌 により、蝕虫を祓って枯れた稲を再生して実らせているため、
この名が贈られたのでしょう。“御歳神”  “大年神” は、これの換言と思います。

 葛木御歳神社 (かつらぎみとしじんじゃ)
 大和国葛上郡。奈良県御所市東持田269。 
 現在の祭神 :御歳神、大年神、高照姫命
 ・摂社に 稚日女命神社(わかひめじんじゃ) あり。

 

【概意】
後にワカ姫が罷る時、琴と言の奥義を譲る。
八雲打ち・五濯ぎ・カダカキの 琴の奥義はタカ姫に譲り、その名もタカテル姫となし、
ワカ歌のクモクシの伝えはオクラ姫に授け、名もシタテル姫となす。
ワカ国のタマツ島に “年乗り神” と贈り名して称えます。



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 いつもやゑかき おほなむち
 やゑかきうちて たのしむる ももやそひたり こにみつるかな

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 イヅモ八重垣 オホナムチ
 生え画内で 楽しむる 百八十一人 子に満つるかな

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イヅモ八重垣 (いづもやゑがき)
貴日(=アマテル) に仕えるモノノベの主」 という意で、オオモノヌシ の換言です。
ゆえに イヅモヤヱガキ は、初代オオモノヌシ の “オホナムチ” にかかります。


生え画 (やゑがき)

■楽しむる (たのしむる)
タノシム の連体形で、この連体形は タノシム を他動詞化します。
ですから 「足らす・充足させる・満たす・いっぱいにする」 などの意となります。

 ★楽しむ (たのしむ)
 タノシ(楽し)+シム(染む) の短縮で、“シム” は形容詞を動詞化します。
 「楽しに染まる・満ちるさまに染まる」 などが原義です。

 ★楽し (たのし:形容詞)
 タヌ+シ(▽如・▽然) で、タヌ は タル(足る) の変態。
 「足る如し・充足する如し・満ち足りる如し」 などが原義です

 

【概意】
イヅモ八重垣オホナムチ、産屋の内で増やす181人の子に満ちるかな。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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