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徹底解説ほつまつたえ講座 改訂版第65回 [2023.10.22]

第十三巻 ワカヒコ 妹背すずかの文 (5)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 わかひこいせすずかのあや (その5)
 ワカヒコ 妹背すずかの文 https://gejirin.com/hotuma13.html
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 いわく
 はくさや おのこくさ ゐねあわならす
 あやかりて ひともうまるる みちわする
 たとえはたしむ からしむし うおとりけもの あいもとむ

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 曰く
 莠や オノコ草 稲・栗 生らず
 肖りて 人も生まるる 道 忘る
 例えば嗜む 枯らし虫 魚・鳥・獣 合いもとむ

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   ここは五七調が少々いびつなため、言葉の区切りを調整しています。

莠 (はぐさ)
水田に生えて稲を害する雑草です。見た目は稲に似ています。 ▶画像


■オノコ草 (おのこぐさ) 
現在は エノコログサ(狗尾草) と呼ばれ、別名ネコジャラシです。 ▶画像
オノコは 「獣」 を意味します。後世は とりわけ 「犬」 をいうようです。
穀物のアワ(粟)の原種とされますが、食用にはあまり適しません。

 ★オノコ (▽獣)
 オ(汚・穢)+の+コ(子・▽分) で、
 オは 「けがれ・逸れ・外れ」、コは 「分かれ・分類」 が原義です。
 よって 「人に非ざる類・外道の類・けもの(獣)」 を意味します。


肖る (あやかる)
アユ(肖ゆ・▽合ゆ)+カル(▽交る) の同義語連結です。
「合い交わる・まみれる・似る・真似る・感化される」 などの意です。


嗜む (たしむ)
タス(足す)+シム(染む) の短縮で、「付いて染まる・親しむ」 が原義。
ナジム(馴染む) の変態です。


■枯らし虫 (からしむし)
これは不明ですが、魚・鳥・獣が餌とする虫ではないかと思います。
人が食べると 人を枯らすので 「枯らし虫」 というのかもしれません。


■合いもとむ (あいもとむ)
アフ(合ふ)+モトム(▽纏む) の同義語連結で、
「付きまとう・慣れ親しむ・親和する・招き寄せる」 などの意です。

 ★もとむ (求む:▽纏む/▽回む/▽基む)
 微妙に異なるいくつかの意味があるので整理しておきます。
 (1) マトフ(纏う)、マトム(纏む)、ムツム(睦む) などの変態で、
   「合う/合わす・結ぶ・添う・寄る/寄せる・付く」 などが原義です。
 (2) マドフ(惑ふ)の変態で、モトオル(回る・廻る)と同義です。
   「往き来する・回る・徘徊する・探す・探る・尋ねる」 などが原義です。
 (3) 2と原義は同じですが、「ある所の周りをぐるぐる回る・よりどころにする・
   基づく・回帰する」 などの意を表します。

 

【概意】
ワカヒコ曰く、
莠やオノコ草は <稲・栗に似るが その側に> 稲や栗は生えない。
<同様に 外道の物に> 肖れば、人も生まれる道を忘れるのである。
例えば、枯らし虫を食べ慣れれば、魚・鳥・獣の道に親和してしまう。

 ここからまたワカヒコの語りがしばらく続きます。

 

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 てれはたからは なんのため
 ほめはうまきに ふけるゆえ まれにうまるも まつしくて
 やつことなりて みおしのき ひとたのします

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 てれば財は 何のため
 褒め衣・美味きに 耽るゆえ 稀に生まるも 貧しくて
 奴となりて 実を凌ぎ 人 楽しまず

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てれば (照れば)

耽る・更ける・深ける・老ける・蒸ける (ふける)
フク(吹く・噴く)の連体形で、「高まる・勢いづく・深まる・熟す」 などが原義です。
この場合は 「深みにはまる・溺れる・没頭する」 などの意です。


■稀に生まるも (まれにうまるも)
この場合は 「どうにか生まれるも・かろうじて生まれるも・生まれはしても」
などの意を表します。

 ★稀・希 (まれ)
 マフ(舞ふ・▽回ふ)の変態 マル(▽回る)の名詞形で、「回り巡ってやってくるさま」
 が原義です。それゆえ 「頻繁ではないさま・わずか・かろうじて・どうにかこうにか」
 などの意を表します。


貧し (まづし)
褒め衣 (美装)・美味き (美食)にリソースを費やすため、“貧しい” ということでしょう。
アマテルは23アヤで次のように言ってます。

 ユフ・ヌノ・絹を 染め飾る これなす人は 耕さで
 隙欠くゆえに 田も粗れて たとひ実れど 乏しくて〈ホ23〉


奴 (やつこ)
この場合は 「褒め衣 (美装)・美味き (美食) の奴隷」 の意で、すなわち
“自分をよく見せたい”  “美味いものを食べたい” という 「邪欲の奴隷」 です。 ▶邪欲


■実を凌ぐ (みおしのぐ)
ミ(実)は ここではサネ(実・核)と同じで、「本質・根本・心・精神」 などを意味します。
この場合は 「心/精神を 軽んじる・卑しめる」 という意です。

 ★凌ぐ (しのぐ)
 「上にある・長ける・勝る・越える」 などが原義ですが、同時に
 他のものを 「下に置く・抑えつける・踏みつける・軽んじる」 などの意を表します。


■人楽しまず (ひとたのしまず)
他の生き物にはない 「人間に固有の精神活動を楽しまない」 ということです。

 

【概意】
それに照らし見る時、<邪欲の対象である> 財は何のためか。
美装・美食の欲に耽けるゆえ、生まれはしても貧しくて、
邪欲の奴隷となって精神を卑しめ、人たることを楽しまず。

 

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 かのほしお うらやむひとか かむゆえに たまのをみたれ
 つちかせの ちまたにしゐの くるしみか けものとなるそ
 かみうたす

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 彼の欲を 羨む人が 咬むゆえに 霊の緒 乱れ
 旋風の ちまたに魄の 苦しみが 獣となるぞ
 神 打たず

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■彼の欲 (かのほし)
「美装・美食に耽る欲」 をいいます。


■羨む人が咬む (うらやむひとがかむ)
「羨む人の念が “イソラ” に転じて障る」 という意です。

 ★イソラ・ヰソラ (▽逸霊)
 「逸れ曲った霊・邪霊」 という意です。これは生きている人間が放つ、
 羨み・妬み・恨みなどの不調和な念 (生き霊) が、集合して強大化したものです。
 イソラは “同類相求む” の法則により、同種の念を放つ人に寄り付いて、干渉・支障を働き、
 さらなる強大化を図ります。ハハ(▽蝕霊)、オロチ(折霊) などとも呼ばれます。

 ★噛む・嚼む・咬む・▽交む・▽和む (かむ)
 カフ(交ふ・支ふ)の変態で、「合う/合わす・交わる/交える」 を原義とし、
 ここでは 「障る」 の意です。


■霊の緒 乱る (たまのをみだる)
「霊の緒がもつれる」 ことをいい、もつれた霊の緒を “乱れ緒” といいます。こうなると
死んでも魂と魄の結合が解けず、陽元=太陽 と 陰元=月 に還ることができないため、
人には転生せず、浮遊霊地縛霊となって世に徘徊したり、動物に転生したりします。

  ★霊の緒・▽霊の結 (たまのを)
 「タマ(魂)とシヰ(魄)の結合」 をいいます。魂は陽霊(陽性のエネルギー体)、
 魄は陰霊(陰性のエネルギー体)です。この結合が肉体生命と人の心を生み、
 この結合が切れれば人は死にます。よって霊の緒は人間の生命線です。

 ★乱る (みだる)


■旋風のちまた (つぢかぜのちまた)
これは 「まるで辻のちまたで旋風に襲われる如く」 という意で、
「イソラの干渉がどんなものか」 を表わす比喩です。

 ★ツヂカゼ (辻風・旋風)
 「辻=十字路 に吹く風」 をいいますが、十字路のちまた(交差点)では、
 4方からの風が入り乱れて渦を巻き、“旋風” が発生します。よって 辻風=旋風 です。


■魄の苦しみ (しゐのくるしみ)
「身体の狂い・肉体の異常」 などの意です。
シヰ(魄)は この場合は「身体・肉体」を意味します。
クルシミ(苦しみ)は 「曲り・狂い・逸れ・外れ・異常」 が原義です。


■神打たず (かみうたず)
「神は 対処せず・仕置せず・罰せず」 の意です。

 

【概意】
彼の欲を羨む人の念がイソラとなって障り、そのために霊の緒が乱れようとも、
旋風に襲われる如きのイソラの干渉により、身体の異常が極まって獣となろうとも、
神がそれを罰することはない。

 

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 たとえはゆめの おそわれの しのひかたくて
 わきまえす まかるのつみも おそわれそ
 ひとおまとわす わかほしも ひとはうたねと
 たまのをに おほゑせめられ なかきゆめ

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 例えば夢の 魘われの 忍び難くて
 弁えず 罷るの詰みも 圧われぞ
 他人を惑わす 我が欲も 他人は打たねど
 霊の緒に 覚え責められ 長き夢

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■魘われ (おそわれ)
オソフ(圧ふ・襲う)の受動形 “オソワル” の名詞化です。「攻め・圧迫・抑圧」
などの意ですが、悪夢におそわれる場合は、特に “魘われ” と当てるようです。


■弁えず (わきまえず)
ここでは 「思慮無く・短慮に・軽率に」 などの意です。 ▶弁ふ(わきまふ)


■罷るの詰み (まかるのつみ)
「死ぬという結末・自殺するという結末」 の意です。 ▶罷る(まかる)

 ★詰み (つみ)
 ツム(詰む)の名詞形で、「ゆきづまり・結び・納め・終り」 などの意です。
 将棋の “詰み” と同じです。


■圧われぞ・襲われぞ (おそわれぞ)
“圧われ” は “打たれ” と同義で、この場合は 「神の仕打ちぞ・神に打たれると同じぞ」
という意味です。


■長き夢 (ながきゆめ)
「長く感じる夢」 ということだと思います。
これは 「おそろしい夢・悪夢」 をいうのでしょう。

 

【概意】
しかし例えば、悪夢の魘われに耐えられず、
思慮もなく死を選ぶという結末。これは神に打たれると同じぞ。
他人を惑わす自分の欲も、他人から罰せられることはなくても、
自分の霊の緒に刻印されて責められ、長き悪夢となって現れる。

 

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 あめのまつりお たておけよ
 かはねのみやに かんくらお もふせはをとけ ひとなるそ
 まつりなけれは あまめくみ もれておつるそ

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 陽陰の纏りを 立ておけよ
 屍の宮に 神座を 申せば緒解け 人生るぞ
 纏りなければ 陽陰恵み 漏れて落つるぞ

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■陽陰の纏り (あめのまつり)
アメ(陽陰)は 「陽陰・天地・上下・日月・魂魄・明暗」 などを意味します。
マツリ(纏り)
は「まとわせ・招き寄せ」などの意です。
この場合は 「日月の神霊を招き寄せること」 をいいます。


■立ておく (たておく)
タツ(立つ)+オク(▽起く) の連結で、オクは オコス(起こす)の母動詞です。
両語とも 「上げる・上に置く・尊ぶ・敬う・重んじる」 などの意を表します。


■屍の宮 (かばねのみや)
これは 「亡骸を収める器」 という意です。 「喪屋」 の別名と考えます。 ▶屍(かばね)


■神座 (かんくら)
「神霊の座所」をいいます。この場合は 「日月の神霊をまとわせる場所」 です。


申す (もふす)
マフス(塗す)の変態で、この場合は 「設ける・設置する」 の意です。


■緒解け人生る (をとけひとなる)
「霊の緒が解けて人に生まれる」 という意です。

 人は一生を終えると、タマノヲ(霊の緒)が解けて魂・魄は分離し、それぞれ
 陽元と陰元に還ります。還った魂・魄は再び結合して、人として転生するの
 ですが、邪欲に染まった霊の緒は乱れて解けなくなり、魂・魄は分離できず
 陽元と陰元に還れません。ゆえに人として転生することもできなくなります。

 そうした場合に “陽陰の纏り” を行えば、霊の緒が解けるということです。
 ですからこれも “霊還し” の方法の一つと言えますが、霊還しの具体的な
 方法については触れられていないのです。と書いたところでハッとしました。
 もしかすると、ここに言う “陽陰の纏り” が “霊還し” の方法そのものかと。


■陽陰恵み (あまめぐみ)
「日月の恵み・日月のご利益」 という意です。

 

【概意】
日月の纏りを尊べよ。
喪屋に日月の神座を設ければ、霊の緒が解けて人に生るぞ。
纏りなくしては、日月の恵みは漏れて落ちるぞ。


 屍の宮に日月の神座を設けると、なぜ霊の緒が解けて人に生れるのか?
 その理由については15アヤで説かれています。

  人はもと 中子・心派 日月なり 直ぐに罷れば 相応え
  陽陰の宮居に 還さんと 獣になるを とどむなり 〈ホ15〉


  【概意】
  もともと人の中子(=心=霊=魂魄)と 心派(=霊の緒)は日月なり。
  ゆえに曲りなく罷れば、日月が対応して 陽元・陰元に還そうと、
  獣になるのを留めるなり。

 

 

本日は以上です。それではまた!

 

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