⇦前の講座          目次           次の講座⇨ 

 

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

一から学ぶ ほつまつたえ講座 第29回 [2023.8.14]

第七巻 遺し文 清汚を直つ文 (3)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 のこしふみさがおたつあや (その3)
 遺し文 清汚を直つ文 https://gejirin.com/hotuma07.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

―――――――――――――――――――――――――――――
 もちかくらひめお かんさひのこの あめおしひ
 めあわせすけか あにとなし ちちますひとの まつりつく
―――――――――――――――――――――――――――――
 モチがクラ姫を カンサヒの子の アメオシヒ
 妻わせ典侍が 兄となし 父マスヒトの 纏り継ぐ

―――――――――――――――――――――――――――――

■モチ
モチコ の略です。


クラ姫

カンサヒ
サホコチタル国マスヒトです。


■アメオシヒ
カンサヒの子です。他文献には 天忍日命・天押日命 などと記されます。

 旧事紀 に『天忍日命 大伴連等祖 亦云 神狭日命』と記され、
 神狭日命(カンサヒ) と同一視されていますが、子と父の間柄です。

 クニトコタチ─クニサツチ┐
   (I)     (II)  │
 ┌───────────┘
 ├トヨクンヌ─ウビチニ┬ツノクヰ─オモタル
 │ (III)    (IV) │  (V)   (VI)    ┌クラキネ
 │          │           ├ココリ姫
 │          └アメヨロツ┬アワナキ─┴イサナキ┐
 │          (養子)↑  └サクナキ   (VII) ├ヒルコ
 │             └─────┐       ├アマテル
 ├ハコクニ─東のトコタチ┬アメカガミ─アメヨロツ    ├ツキヨミ
 │      (初代)  │               ├ソサノヲ─ヲオナムチ
 └ウケモチ       └タカミムスビ─トヨケ┬イサナミ┘
               (2〜4代)   (5代)├ヤソキネ─タカキネ──┬オモヒカネ
                        │ (6代)   (7代)   ├ヨロマロ
                        ├カンサヒアメオシヒ ├フトタマ
                        └ツハモノヌシ     ├タクハタチチ姫
                                    └ミホツ姫

 林神社 (はやしじんじゃ)
 越中国砺波郡。富山県砺波市林525。 
 現在の祭神:道臣命。
 ・『越中国式内等旧社記』による祭神:天忍日命 (またの名:神狭日命)


妻わす (めあわす)

■典侍が兄となす (すけがあにとなす)
典侍 は モチコ を指します。クラ姫はモチコの腹違いの妹ですから、
クラ姫の夫となるアメオシヒは モチコの義理の兄弟となります。


■父マスヒト (ちちますひと)
この場合は 2人の “父マスヒト” を指します。
まずモチコとクラ姫の父で、根の国の前マスヒトだった クラキネ です。
今一人はアメオシヒの父で、サホコチタル国の現マスヒトの カンサヒ です。


■纏り継ぐ (まつりつぐ)
これも 2つの意味が重なります。
(1) モチコの実家である クラキネの纏り(家・家系)を、クラ姫の夫となったアメオシヒが継ぐ。
(2) 新マスヒトとなって、サホコ国の纏り(治め)を、実父カンサヒからアメオシヒが引き継ぐ。

 ★纏り (まつり)
 ここでは 「まとまり・家・家系」 の意と、「まとめ・治め・政治」 の意で使われています。

これによりアメオシヒは、クラキネの家を継ぎ、かつ、サホコ国のマスヒトとなるわけです。
モチコ賢い!


 ウビチニ┬ツノクヰ─オモタル   ┌ココリ姫
     │             │
     └アメヨロツ尊┬アワナキ─┼イサナキ───アマテル      
            │      │        ┃
            └サクナキ  │  ???  ┌─モチコ───ホヒ
                   │  ┃──┤  ┃
                   └クラキネ └─ハヤコ───タケコ・タキコ・タナコ
                      ┃──┐
                    サシミメ  └─クラコ
                            ┃
             トヨケ───カンサヒ───アメオシヒ

 

【概意】
モチコは、クラキネの血を引く義妹のクラ姫を、
カンサヒの子のアメオシヒに妻わせ、アメオシヒを自分の兄とすることで、
<根の国の治めは失うものの> クラキネの家系とサホコ国の治めをつなぐ。



―――――――――――――――――――――――――――――
 しらひとこくみ このいわひ なかはさおゑて
 さすらひの ひかわにやるお ますひとの わかとみとなす
―――――――――――――――――――――――――――――
 シラヒト・コクミ この祝 半ば清を得て
 “さすらひ” の ヒカワに遣るを マスヒトの 我が臣となす
―――――――――――――――――――――――――――――

シラヒト ■コクミ
シラヒトは 根の国 のマスヒト、コクミは サホコ国 の副マスヒトでしたが、
ツハモノヌシ の告発により極悪非道の罪が暴かれ、死罪の判決を受けています。


■この祝 (このいわひ)
「クラコ姫とアメオシヒの結婚の祝」 です。


■半ば清を得る (なかばさおゑる)
ナカバ(半ば) は 「半分」 の意で、サ(清) は サガ(清汚) の ‘サ’ です。
サ(清)は 量刑のプラス要因、ガ(汚)はマイナス要因です。
クラ姫とアメオシヒの結婚の祝賀によって 「恩赦の減刑を得る」 ことをいいます。


さすらひ
シラヒトの量刑は410クラ、コクミは370クラで、共に死罪ですが、 ▶クラ
半分に減刑されると 205クラと185クラとなり、両者とも 180以上270回未満 の刑罰
“さすらひ” を受けることになります。居住する国から追放される刑 (国払い) です。

 天回り 三百六十度を 経矛法
 “所を去る” と “
さすらふ” と “交わり去る” と “命去る” 
〈ホ7-1〉


■ヒカワ・ヒカハ (鄙側・▽卑郷・簸川)
ヒ()+カワ(側・▽郷) で、「隅・端・辺鄙・僻地」 を意味します。
そうした 辺鄙・僻地 は 「流刑の地・島流しの地」 として使われたため、
ヒカワ には 「罪の地・曲りの地・穢れの地」 という意味がまとい付きます。 ▶島流し

 狭義のヒカワ は サホコチタル国の 辺境の一地域を指す地名です。
 ホツマの記事から察すると、サタ(佐田) の別名であるように思われ、
 だいたいですが、後の 簸川郡佐田町 に当たるのではないかと考えています。

ヒカワにはさらに別の意味もあり、後のアヤで出てきます。


■マスヒト
新たにサホコ国のマスヒトとなった アメオシヒ を指します。

 

【概意】
シラヒトとコクミは、この祝事に刑半減の恩赦を得て、
“さすらひ” の刑でヒカワに流すを、
サホコ国のマスヒト(=アメオシヒ)は自分の臣として召し入れる。



―――――――――――――――――――――――――――――
 そさのをは これととのひて まなゐなる かみにまふてる
 そのなかに たおやめあれは これおとふ まかたちこたふ
 あかつちか はやすふひめと きこしめし
―――――――――――――――――――――――――――――
 ソサノヲは これ調ひて マナヰなる 神に詣でる
 その中に 嫋女あれば これを問ふ 侍婢答ふ
 「アカツチが ハヤスフ姫」 と 聞し召し
―――――――――――――――――――――――――――――

ソサノヲ
この時期は姉のヒルコに助けられながら、臣としてアマテルに仕え始めています。


■これ
「クラコ姫とアメオシヒの婚礼の儀」 をいいます。


■マナヰなる神 (まなゐなるかみ) ■朝日神 (あさひかみ)
マナヰ朝日宮 に纏られる 「トヨケの神霊」 をいいます。 ▶トヨケ
アマテルは “アサヒカミ(朝日神)” と 贈り名 しています。
マナヰは サホコチタル国の都である ミヤツ(宮津) の別名です。

 真名井神社 (まないじんじゃ)
 丹後国与謝郡。京都府宮津市江尻、籠神社奥宮。
 現在の祭神:豊受大神


詣でる (まふでる)
マフヅ(詣づ) の 「終止形+エル」 の形の 連体形で、
ここでは 「上位者 (上・神) のもとに参上する」 という意です。

 ★詣づ (まふづ・もふづ・もうづ)
 マフ(舞ふ・▽燃ふ)+フツ(悉つ・▽沸つ) の同義語短縮で、
 「上がる/上げる・参る/参らす」 が原義です。


■嫋女・手弱女 (たおやめ・たわやめ)
辞書は “手弱女” と当てますが、「たおやかな女」 という意味なので、
“嫋女” と当て字しています。 ▶たおやか

 タオヤ は タオユ の名詞形で、タオユ は タオル(倒る) の変態。
 タワヤ は タワフ の名詞形で、タワフ は タワム(撓む) の変態です。


侍婢・侍女 (まかたち)
マク(巻く)+タツ(立つ) の名詞形で、
「取り巻いて立つ者・そばに付いて世話する者」 の意と考えます。


■アカツチ
九州の ウサ(宇佐) を本拠とする地守で、この時期、その管轄は九州にとどまらず、
山陽の安芸あたりにまで及んでいたようです。諸神社に “赤土命” の名で祀られます。
アカツチは ナカツツヲ の換言だろうと思います。

 住吉神社 (すみよしじんじゃ)
 宮城県角田市枝野字郡山5。  
 現在の祭神:表筒之男命 (別名:磐土神、上地廼雄神)
       中筒之男命 (別名:赤土神、中地廼雄神)
       底筒之男命 (別名:底土神)


■ハヤスフ姫・ハヤスヒ姫 (はやすふひめ・はやすひひめ)
アカツチの娘です。この名はかなり衝撃的な意味なのですが、それは後のお楽しみです。

 早吸日女神社 (はやすいひめじんじゃ)
 豊後国海部郡。大分県大分市佐賀関3336-2。 
 現在の祭神:八十枉津日神、大直日神、底筒男神、中筒男神、表筒男神
 <筆者注> もともとは 早吸日女 を祀っていたはずです。


聞し召す (きこしめす)
ここでは 「お聞きになる・お知りになる」 などの意です。

 

【概意】
ソサノヲはこの祝事を調えるため、マナヰに坐す朝日神に詣でる。
その中にたおやかな美女を見出し、これを問えば侍女が答えて、
アカツチのハヤスフ姫とお聞きになる。



―――――――――――――――――――――――――――――
 きしおとはせて ちちにこふ あかつちみやに とつかんと
 いえとみやなく ををうちの おりおりやとる ねのつほね
―――――――――――――――――――――――――――――
 雉を飛ばせて 父に請ふ 「アカツチ宮に とつがん」 と
 言えど和なく 大内の 折々宿る 北の局
―――――――――――――――――――――――――――――

雉・雉子 (きじ・きぎす)

■父 (ちち)
ハヤスフ姫の父の アカツチ を指します。


■アカツチ宮 (あかつちみや)
アカツチが本拠とする 「ウサの宮」 をいいます。

 宇佐神宮 (うさじんぐう)
 豊前国宇佐郡。大分県宇佐市南宇佐2859。 
 現在の祭神:八幡大神、比賣大神、神功皇后


とつぐ

■和なし (みやなし)
ミヤ(▽和)+ナシ(無し) で、「結ばない・まとまらない・調わない・うまくいかない」
などの意となります。ヤムナシ(止む無し・▽和む無し) は同義語です。

 ★見・▽和・▽結 (みや)
 ミル(見る) の変態 ミユ(見ゆ) の名詞形で、ヤワ(和) と同義です。
 「合い/合わせ・やわし・結び・和合・調和」 などを意味します。


■大内 (ををうち)
イサワの都の 大内宮 です。


■北の局 (ねのつぼね)
典侍モチコ内侍ハヤコ内侍アヤコ(=トヨ姫) がいる局です。 ▶局(つぼね)

 

【概意】
ソサノヲはキジを飛ばして、ハヤスフ姫の父アカツチに
「アカツチ宮と婚姻を結びたい」 と請うが、うまく調わず、
その後ソサノヲは大内宮の北の局に折々宿るようになる。


 北の局のモチコ・ハヤコ と ソサノヲとの因縁は、トヨケ亡き後、
 アマテルが 宮津 に滞在して、サホコ国の政を自ら執っていた時代に
 発生していると考えられます。
 この時この3人は、アマテルに付き従って宮津にいるのです。



―――――――――――――――――――――――――――――
 ゑとやすめとて うちみやの とよひめめせは
 ねのつほね さかりなけけは そさのをか たたゑかねてそ
 つるきもち ゆくおはやこか おしととめ
 いさおしならは あめかした
―――――――――――――――――――――――――――――
 「姉妹休め」 とて 内宮の トヨ姫召せば
 北の局 下がり嘆けば ソサノヲが 湛えかねてぞ
 剣持ち 行くをハヤコが 押し止め
 「功 成らば 天が下」

―――――――――――――――――――――――――――――

■姉妹・兄弟 (ゑと)
「上下」 が原義で、「兄弟・姉妹」 を意味し、男女どちらにも使います。
ここでは 「モチコとハヤコの姉妹」 を指します。

 ★ヱト (▽上下・▽兄弟・▽姉妹・▽陽陰・干支)
 ヱ(▽上)+ト(▽下) で、「上下」 を原義とし、「兄弟・姉妹」 を意味します。
 また 天地創造の過程で、上に昇った 「陽」 と、下に降った 「陰」 を表します。


■休む (やすむ)
東西南北の局は交代制で君のお世話に当たっていました。この時は北の局の
当番だったのでしょう。典侍モチコと内侍ハヤコに “休め” と指示して遠ざけ、
トヨ姫だけを召すというのは、かなり異常な事態です。


内宮 (うちみや)
この場合は 「皇后のセオリツ姫」 を指します。
すべての ツボネ(局)三十侍 は、内宮が管理監督します。


トヨ姫 (とよひめ)
北局の内侍 で、斎名は アヤコ。九州で 上・中・底のワタツミ を統括する
ムナカタ の娘で、クマノクスヒ の母です。

 高良大社 (こうらたいしゃ)
 筑後国三井郡。福岡県久留米市御井町1。 
 現在の祭神:高良玉垂命、八幡大神、住吉大神  合祀:豊比淘蜷_

 香春神社 (かはらじんじゃ)
 豊前国田川郡。福岡県田川郡香春町大字香春733。 
 現在の祭神:辛國息長大姫大目命、忍骨命、豊比賣命


■湛えかぬ (たたえかぬ)
タタフ(湛ふ) は 「とどめる・溜める」 が原義で、カヌ(兼ぬ) は 「できない」 の意です。
ですから 「内に留めておけない・腹に据えかねる・こらえられない」 などの意となります。

 ★かぬ (兼ぬ:“できない” の意)
 “できない” の意の カヌ は、カヌ(兼ぬ)+ヌ(否定) の短縮形で、
 カナワヌ(叶わぬ) と同義と思います。

  また、〜かねない という言い方がありますが、これは カヌ(兼ぬ) の2重否定で、
  「叶わぬとはいえない・ありえる」 の意になります。


■功 (いさおし)
イサフ(勇ふ)+シク(如く) から ‘ク’ を除いた ク語法 で、イサフは イサム(勇む) の変態です。
「高まるさま・栄えるさま・優れるさま・至るさま」 などが原義で、イブキ(息吹) と同義です。

 いさおし【勲・功】〈広辞苑〉
 事をうまくなしとげた名誉。手柄。勲功。いさお。


天が下 (あめがした)
いわゆる テンカ(天下) で、「地・地上・世・国」 と同義です。

 

【概意】
「モチコ・ハヤコの姉妹は休め」 と暇を与えて、内宮はトヨ姫を召す。
姉妹が北の局に退いてそれを嘆くと、ソサノヲは腹に据えかねて、
剣を持って出て行こうとするをハヤコが押しとどめて、
「成功すれば天下は我らのもの。」 〈だから今は辛抱すべし〉



―――――――――――――――――――――――――――――
 はなこきたれは ほこかくす みぬかほすれと うちにつけ
 あるひたかまの みゆきあと もちこはやこお うちにめす
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハナコ来たれば 矛 隠す 見ぬ顔すれど 内に告げ
 ある日タカマの 御幸後 モチコ・ハヤコを 内に召す
―――――――――――――――――――――――――――――

ハナコ

■矛・戈・鉾 (ほこ)
ツルギ(剣) と同じです。ソサノヲが手に持っている剣をいいます。
ホコ は ホグス(解す) の母動詞 “ホク” の名詞形です。


■内 (うち)
内宮 の略です。
内に告ぐ の “内” は、皇后の セオリツ姫 を指します。
内に召す の “内” は、君とセオリツ姫の住居区画、つまり 皇居 をいいます。


タカマ

 

【概意】
ハナコがやって来たので剣を隠す。
ハナコは見て見ぬふりをしたが、皇后に報告する。
皇后はある日、君がタカマに御幸された後、
モチコとハヤコを内宮に呼ぶ。



―――――――――――――――――――――――――――――
 ひにむかつひめ のたまふは なんちらゑとか みけひえて
 つくしにやれは つくみおれ たなきねはとる をはちちに
 めはははにつく みひめこも ともにくたりて ひたしませ
 かならすまてよ ときありと むへねんころに さとされて
―――――――――――――――――――――――――――――
 日に向つ姫 宣給ふは 「汝ら姉妹が 御気冷えて
 ツクシに遣れば 噤み下れ タナキネは取る 男は父に
 女は母に付く 三姫子も 共に下りて 養しませ
 必ず待てよ 時あり」 と むべ懇ろに 諭されて

―――――――――――――――――――――――――――――

日に向つ姫 (ひにむかつひめ)

■宣給ふ (のたまふ)
ノツ(▽宣つ)+タマフ(給ふ) の短縮で、「言う・述べる」 の尊敬語です。
辞書は “宣ふ” と当てます。


■御気 (みけ)
ケ(気) の尊敬語です。「君に対する心・気持ち」 をいいます。


■噤み下る (つぐみおる)
ツグム(噤む)+オル(下る) の同義語の連結で、
「(身を) 低める・すぼめる・ひそめる」 などの意です。

 ★噤む (つぐむ)
 ツク(漬く)+クム の短縮で、ツク は ツクバフ(蹲ふ) の、クム は クグム(屈む) の母動詞。
 両語とも 「下がる・低まる・小さくなる・すぼまる・沈む」 などが原義で、
 「黙る・ひっそりと暮らす・隠れ住む・潜伏する・隠遁する・蟄居する」 などの意を表します。


■タナキネ
モチコが生んだアマテルの長男 ホヒ の斎名です。
6アヤでは “タナヒト” と紹介されていましたが、変わっています。

 さきにモチコが 生む御子は ホヒの尊の タナヒトぞ 〈ホ6-4〉

“○○ヒト” の 斎名 は、皇位継承予定者のみに付される特別なものです。

 和つ君 一より十までを 尽すゆえ “ヒト” に乗ります 〈ホ4-5〉

ゆえに この斎名の変更は、セオリツ姫が オシホミミ(斎名オシヒト) を生んだため、
ホヒの皇太子の身分が剥奪されたことを意味します。


■三姫子 (みひめご)
ハヤコが生んだ タケコタキコタナコ の 3つ子の姫です。

 他の文献では、タケコは 田心姫・多紀理比賣命
 タキコは 多岐都比売命・湍津姫、タナコは 市杵嶋姫命 などと記されます。


■必ず (かならず)
カヌ(兼ぬ)+ナラズ の短縮で、「かなわぬ/できぬ ではならず」 というのが原義です。
「なんとかして・どうあろうと・まちがいなく」 などの意を表します。


むべ (宜)

ねんごろ (懇ろ)

 

【概意】
日に向つ姫が仰せになるは、
「汝ら姉妹の、君への気持ちは冷めており、九州に遣るので蟄居いたせ。
男は父に、女は母に付くものゆえ、タナキネはこちらで預かる。
3姫子も連れ下りて養育されよ。必ず待てよ。チャンスはある。」
と懇切丁寧に諭されて、



―――――――――――――――――――――――――――――
 つくしあかつち これおうけ うさのみやゐお あらためて
 もちこはやこは あらつほね おけはいかりて ひたしせす
 うちにつくれは とよひめに ひたしまつらし
―――――――――――――――――――――――――――――
 筑紫アカツチ これを受け ウサの宮居を 改めて
 モチコ・ハヤコは 新局 置けば怒りて 養しせず
 内に告ぐれば 「トヨ姫に 養し纏らし」

―――――――――――――――――――――――――――――

筑紫 (つくし) ■アカツチ

■ウサの宮居 (うさのみやゐ)
ウサ は 九州の地名で、“宇佐・宇沙・菟狭” 等に記されます。
ミヤヰ(宮居) は ミヤ(宮) と同じで、「中心・中枢・本拠」 などを意味します。
これは アカツチ宮 の別名です。


■新局 (あらつぼね)
「新たな区画・新たな部屋」 などの意です。 ▶局


■養し纏らし (ひたしまつらし)
ヒタス(養す)マツル(纏る)+シ(使役) で、
ヒタス・マツル は どちらも 「付いて用を足す・世話する」 などの意です。
‘シ’ は 使役のス の命令形で、“せ・させ”  と同じです。
ですから 「世話させよ・面倒見させよ・養育させよ」 の意となります。

 トヨ姫は九州の地守 ムナカタ の娘でした。宇佐神宮と宗像大社の両方が3姫を祀るのは、
 ウサの宮居に派遣されたトヨ姫が3姫を養育したことに由来するものと考えられます。

 宇佐神宮 (うさじんぐう)
 豊前国宇佐郡。大分県宇佐市南宇佐2859。 
 現在の祭神:八幡大神、比売大神、神功皇后
 ・比売大神は 宗像三女神 (多岐津姫命、市杵嶋姫命、多紀理姫命) をいう。
 ・主神は八幡大神の応神天皇であるが、実際に宇佐神宮の本殿で主神の位置である
  中央に配置されているのは比売大神であり、なぜそうなっているのかは謎とされる。

 宗像大社 (むなかたたいしゃ)
 筑前国宗像郡。福岡県宗像市田島/大島。 
 現在の祭神:田心姫神、湍津姫神、市杵島姫神

 

【概意】
九州のアカツチはこれを受けてウサの宮居を改築し、
モチコ・ハヤコを新局に置けば、怒って3姫子の世話をせず。
内宮に報告すれば、「トヨ姫に養育させよ」 と。


 
―――――――――――――――――――――――――――――
 さすらなす ふたさすらひめ いきとほり
 ひかはにいかり なるおろち
 よにわたかまり こくみらも つかえてしむお うはひはむ
―――――――――――――――――――――――――――――
 さすらなす 二さすら姫 憤り
 ヒカハに怒り 成る折霊
 弥にわだかまり コクミらも 仕えてシムを 奪ひ蝕む
―――――――――――――――――――――――――――――

■さすら ■さすらなす ■さすら姫 (さすらひめ)
サスル(摩る・擦る) の名詞形で、「それること・すれる/ずれること」 を意味します。
さすらなす は 「ウサの宮居からそれて他へ行くこと」 を意味しますが、
さすら姫 は 「心がそれた姫・心がすれた姫・あばずれの姫」 という意です。


憤る (いきどほる)
イク(往く・行く)+トホル(通る・徹る) の連結で、「行き過ぎる」 が原義です。
「限界を通り越す」 ことをいいます。


ヒカハ・ヒカワ (鄙側・▽卑郷・簸川)
この ヒカハ は 「罪の地・曲りの地・穢れの地」 の意味で、
アメオシヒシラヒト・コクミ が治める サホコチタル国」 をいうものと思います。

 ウサの宮を出奔したモチコとハヤコは ヒカハ に向かいますが、
 これは筑紫行きを告げられた時点で、すでに計画していたことなのかもしれません。
 ヒカハはウサから比較的近く、かつては姉妹の父の領地だったことや、モチコのとりなしで
 クラコと結婚したアメオシヒが、サホコチタルのマスヒトになっているため、頼りにできると
 踏んでのことかと思います。


■折霊・愚霊 (おろち)
オロ+チ(霊) で、オロ は オル(折る) の名詞形です。
「折れ曲った霊・それてはずれた霊・脱落した霊・よこしまな霊」 などの意で、
つまり 「邪霊・悪霊」 を意味します。

 これは生きている人間が放つ、羨み・妬み・恨み・怒り などの曲った想念が 生き霊
 化けたもので、生き霊は “同類相求む” の法則により、同種の念を放つ人や動物に寄り付いて、
 干渉・支障を働きます。ハハ(▽蝕霊)・イソラ(▽逸霊)・ハタレ(▽外れ) などとも呼ばれます。

 邪霊が憑依することを好む動物が、曲がりくねって下を這う ヘビ(蛇) であるようで、
 ホツマにおいても、邪霊に憑依支配された ヘビ(蛇) を “オロチ” と呼ぶ場合があります。
 当講座では 「邪霊」 の オロチ は “折霊”、「ヘビ」 の オロチ は “” と表記します。
 邪と蛇、どちらも “ジャ” と読むところが なんとも意味深です。

                                生き霊 (さらに詳しく)


■弥にわだかまる (よにわだかまる)
「いよいよに折れ曲る・ますます屈曲する」 などの意です。 ▶弥(よ)

 ★わだかまる (蟠る)
 ワツ+カマル の同義語連結で、ワツ は ワダ(曲) の母動詞、
 カマルは カガマル(屈まる) の母動詞です。
 ですから 「曲って屈まる・屈曲する」 という原義です。


■コクミら
ヒカワに流刑となった シラヒト と コクミ、またその2人を臣として召し入れた、
サホコチタル国のマスヒト アメオシヒ を指します。


■シムを奪ひ蝕む (しむおうばひはむ)
シム(▽精・▽霊) は 「霊・神霊・精神・心」 などと同義です。
ウバフ(奪ふ) は 「そらす・ずらす・曲げる」 の意。ハム は ハユ(蝕ゆ) の変態です。
ですから 「心をねじ曲げてむしばむ」 という意となります。

 自分の曲った心が呼び寄せた 折霊 (=生き霊) に憑依されて、その干渉により、
 ますます心をねじ曲げ、自分の精神をむしばむことをいいます。

 

【概意】
ウサを離れたあばずれ二姫は憤り、その怒りの念は ヒカワで折霊に化ける。
<折霊に憑かれて> ますますねじ曲り、ついにはコクミらも折霊に仕えて、
心をねじ曲げむしばむ。


 モチコの怨念とは、ほぼ内定していた、我が子 ホヒ の皇太子の立場が、
 セオリツ姫が オシホミミ を生んだせいで、はく奪されてしまったこと。
 ハヤコの怨念は、一つには姉モチコへの同調があり、またセオリツ姫に
 ソサノヲと自分たちの蔭の関係 を見破られ、ソサノヲを利用して、
 自分たちに冷淡なアマテル君を見返してやろうとの思惑が砕かれたこと。
 どちらも逆恨みではありますが、すべての原因をセオリツ姫になすり付けます。
 (このあたりのことは28アヤで語られます。)

 

本日は以上です。それではまた!

 

⇦前の講座          目次           次の講座⇨