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徹底解説ほつまつたえ講座 改訂版第29回 [2023.8.14]

第七巻 遺し文 清汚を直つ文 (3)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 のこしふみさがおたつあや (その3)
 遺し文 清汚を直つ文 https://gejirin.com/hotuma07.html
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 もちかくらひめお かんさひのこの あめおしひ
 めあわせすけか あにとなし ちちますひとの まつりつく
―――――――――――――――――――――――――――――
 モチがクラ姫を カンサヒの子の アメオシヒ
 妻わせ典侍が 兄となし 父マスヒトの 纏り継ぐ

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■モチ
モチコ の略です。


クラ姫

カンサヒ
サホコチタル国マスヒトです。


■アメオシヒ
カンサヒの子です。他文献には 天忍日命・天押日命 などと記されます。

 先代旧事本紀という書に『天忍日命 大伴連等祖 亦云 神狭日命』とあり、
 神狭日命(カンサヒ) と混同されていますが、子と父の間柄です。

 クニトコタチ─クニサツチ┐
   (I)     (II)  │
 ┌───────────┘
 ├トヨクンヌ─ウビチニ┬ツノクヰ─オモタル
 │ (III)    (IV) │  (V)   (VI)    ┌クラキネ
 │          │           ├ココリ姫
 │          └アメヨロツ┬アワナキ─┴イサナキ┐
 │          (養子)↑  └サクナキ   (VII) ├ヒルコ
 │             └─────┐       ├アマテル
 ├ハコクニ─東のトコタチ┬アメカガミ─アメヨロツ    ├ツキヨミ
 │      (初代)  │               ├ソサノヲ─ヲオナムチ
 └ウケモチ       └タカミムスビ─トヨケ┬イサナミ┘
               (2〜4代)   (5代)├ヤソキネ─タカキネ──┬オモヒカネ
                        │ (6代)   (7代)   ├ヨロマロ
                        ├カンサヒアメオシヒ ├フトタマ
                        └ツハモノヌシ     ├タクハタチチ姫
                                    └ミホツ姫

 林神社 (はやしじんじゃ)
 富山県砺波市林525。 
 現在の祭神:天忍日命 (またの名:神狭日命)


妻わす (めあわす)

■典侍が兄となす (すけがあにとなす)
典侍はモチコを指します。
クラ姫はモチコの腹違いの妹ですから、クラ姫の夫はモチコの義理の兄か弟となります。


■父マスヒト (ちちますひと)
この場合は2人の父マスヒトを指しています。
まずモチコとクラ姫の父で、根の国の前マスヒトだった クラキネ です。
今一人はアメオシヒの父で、サホコチタル国の現マスヒトの カンサヒ です。


■纏り継ぐ (まつりつぐ)
これにも2つの意味がかかります。
一つはモチコの実家であるクラキネの纏り(家・家系)を、
クラ姫の夫となったアメオシヒが継ぐということ。
もう一つは新マスヒトとして、サホコ国の纏り(治め)を
実父カンサヒからアメオシヒが引き継ぐということです。

 ★纏り (まつり)
 ここでは 「まとまり・家」 の意と、「まとめ・治め・政」 の意で使われています。

これによりアメオシヒは、クラキネの家系を継いだ上で、
サホコチタル国を治めるマスヒトになるわけです。モチコ賢い!

 

【概意】
モチコは、クラキネの血を引く義妹のクラ姫を、
カンサヒの子のアメオシヒに妻わせ、アメオシヒを自分の兄とすることで、
<根の国の治めは失うものの> クラキネの家系とサホコ国の治めをつなぐ。

 

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 しらひとこくみ このいわひ なかはさおゑて
 さすらひの ひかわにやるお ますひとの わかとみとなす
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 シラヒト・コクミ この祝 半ば清を得て
 “さすらひ” の ヒカワに遣るを マスヒトの 我が臣となす
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シラヒト ■コクミ
シラヒトは根の国のマスヒト、コクミはサホコ国の副マスヒトでしたが、
ツハモノヌシの告発により極悪非道の罪が暴かれ、死罪の判決を受けています。


■この祝 (このいわひ)
「クラコ姫とアメオシヒの結婚の祝」 です。


■半ば清を得る (なかばさおゑる)
ナカバ(半ば) は 「半分」 の意で、サ(清)は サガ(清汚)の ‘サ’ です。
サ(清)は 量刑のプラス要因、ガ(汚) はマイナス要因です。
クラ姫とアメオシヒの結婚の祝賀によって 「恩赦の減刑を得る」 ことをいいます。


■さすらひ
さすらふ” の名詞形で、「離れ・逸れ・外れ」 などが原義です。
シラヒトの量刑は410クラ、コクミは370クラで共に死罪ですが、半分に
減刑されると 205クラ/185クラとなり、両者とも180以上270回未満の刑罰
“さすらひ” を受けることになります。これは居住する国から追放される刑です。

 天回り 三百六十度を 経矛法
 “所を去る” と “さすらふ” と “交わり去る” と “命去る” 〈ホ7-1〉


■ヒカワ・ヒカハ (卑側・▽卑郷・簸川)
ヒカワには多くの意味があるのですが、ここでは ヒ(鄙・卑)+カワ(側・▽郷) の意で、
「隅・端・僻地・辺境」 を意味します。ヒカワは 島流し の地であったようで、そのため
「罪の地・曲りの地・穢れの地」 という意味もあります。
場所ははっきりしないのですが、サタ(佐田)の別名がヒカワであるように思われ、
おおよそ後の簸川郡佐田町に当たるかと考えています。


■マスヒト
新たにサホコ国のマスヒトとなった 「アメオシヒ」 を指します。

 

【概意】
シラヒトとコクミは、この祝事に刑半減の恩赦を得て、
“さすらひ” の刑でヒカワに流すを、
サホコ国のマスヒト(=アメオシヒ)は自分の臣として召し入れる。

 

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 そさのをは これととのひて まなゐなる かみにまふてる
 そのなかに たおやめあれは これおとふ まかたちこたふ
 あかつちか はやすふひめと きこしめし
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 ソサノヲは これ調ひて マナヰなる 神に詣でる
 その中に 嫋女あれば これを問ふ 侍婢答ふ
 「アカツチが ハヤスフ姫」 と 聞し召し
―――――――――――――――――――――――――――――

ソサノヲ
この時期は姉のヒルコに助けられながら、臣としてアマテルに仕え始めています。


■これ
「クラコ姫とアメオシヒの婚礼の儀」 をいいます。


■マナヰなる神 (まなゐなるかみ) ■朝日神 (あさひかみ)
マナヰ朝日宮に纏られる 「トヨケの神霊」 をいいます。
アマテルは “アサヒカミ(朝日神)” と贈り名しています。
マナヰは サホコチタル国の都であるミヤツ(宮津)の別名です。

 真名井神社 (まないじんじゃ)
 京都府宮津市江尻、籠神社奥宮。
 現在の祭神:豊受大神


■詣でる (まふでる)
マフヅ(詣づ)の 「終止形+エル」 の形の連体形で、ここでは 「上/神の所に上る」 という意です。

 ★詣づ (まふづ・もふづ・もうづ)
 マフ(舞ふ・▽燃ふ)+フツ(悉つ・▽沸つ) の同義語短縮で、
 「上がる/上げる・参る/参らす」 が原義です。


■嫋女・手弱女 (たおやめ・たわやめ)
辞書には “手弱女” とありますが、「たおやかな女」 という意味なので、
“嫋女” と当て字しています。

 タオヤは タオユの名詞形で、タオユは タオル(倒る)の変態。
 タワヤは タワフの名詞形で、タワフは タワム(撓む)の変態です。


侍婢・侍女 (まかたち)
マク(求ぐ)+タス(足す) の名詞形で、マカナイ(賄い)と同義と考えます。


■アカツチ
九州のウサ(宇佐)を本拠とする地守で、この時期、その管轄は九州にとどまらず、
山陽の安芸あたりにまで及んでいたようです。諸神社に “赤土命” の名で祀られます。
アカツチは ナカツツヲ の換言だろうと思います。

 日尾神社 (ひおじんじゃ)
 富山県高岡市福岡町矢部899。  
 現在の祭神:天押日命、底土神、赤土神、磐土神、伊邪那伎命


■ハヤスフ姫・ハヤスヒ姫 (はやすふひめ・はやすひひめ)
アカツチの娘です。この名はかなり衝撃的な意味なのですが、それは後のお楽しみです。

 早吸日女神社 (はやすいひめじんじゃ)
 大分県大分市佐賀関3336-2。 
 現在の祭神:八十枉津日神、大直日神、底筒男神、中筒男神、表筒男神
 <筆者注> もともとは早吸日女を祀っていたはずです。


聞し召す (きこしめす)
ここでは 「お聞きになる・お知りになる」 などの意です。

 

【概意】
ソサノヲはこの祝事を調えるため、マナヰに坐す朝日神に詣でる。
その中にたおやかな美女を見出し、これを問えば侍女が答えて、
アカツチのハヤスフ姫とお聞きになる。

 

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 きしおとはせて ちちにこふ あかつちみやに とつかんと
 いえとみやなく ををうちの おりおりやとる ねのつほね
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 雉を飛ばせて 父に請ふ 「アカツチ宮に とつがん」 と
 言えど和なく 大内の 折々宿る 北の局
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雉・雉子 (きじ・きぎす)

■父 (ちち)
ハヤスフ姫の父のアカツチを指します。


■アカツチ宮 (あかつちみや)
アカツチが本拠とする 「ウサの宮」 をいいます。

 宇佐神宮 (うさじんぐう)
 大分県宇佐市南宇佐2859。 
 現在の祭神:八幡大神、比賣大神、神功皇后


とつぐ

■和なし (みやなし)
ミヤ(▽和)+ナシ(無し) で、「結ばない・まとまらない・調わない・うまくいかない」
などの意となります。ヤムナシ(▽和む無し・止む無し) は同義語です。

 ★見・▽和・▽結 (みや)
 ミル(見る)の変態 ミユ(見ゆ)の名詞形で、ヤワ(和)と同義です。
 「合い/合わせ・やわし・結び・和合・調和」 などを意味します。


■大内 (ををうち)
イサワの都の 「大内宮」 です。


■北の (ねのつぼね)
この時、北の局に配置されているのは、典侍モチコ内侍ハヤコ内侍アヤコ です。

 

【概意】
ソサノヲは伝令を飛ばして、ハヤスフ姫の父アカツチに
「アカツチ宮の姫に因みたい」 と請うが、うまく調わず、
ソサノヲは大内宮の北の局に折々宿るようになる。

 

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 ゑとやすめとて うちみやの とよひめめせは ねのつほね
 さかりなけけは そさのをか たたゑかねてそ つるきもち
 ゆくおはやこか おしととめ いさおしならは あめかした
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 「姉妹休め」 とて 内宮の トヨ姫召せば 北の局
 下がり嘆けば ソサノヲが 湛えかねてぞ 剣持ち
 行くをハヤコが 押し止め 「功 成らば 天が下」

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■姉妹 (ゑと)
「上下」 が原義で、「兄弟・姉妹」 を意味し、男女どちらにも使います。
ここでは 「モチコとハヤコの姉妹」 を指します。

 ★ヱト (▽上下・▽兄弟・▽姉妹・▽陽陰・干支)
 ヱ(▽上)+ト(▽下) で、「上下」 を原義とし、「兄弟・姉妹」 を意味します。
 また 天地創造の過程で、上に昇った 「陽」 と、下に降った 「陰」 を表します。


■休む (やすむ)
東西南北の局は交代制で君のお世話に当たっていました。この時は北の局の
当番だったのでしょう。それを “休め” と内宮から指示されるのは、よほど
異常な事態です。


内宮 (うちみや)
「皇と后の居住する宮」 また 「正妃・皇后」 を意味します。
この場合は 「皇后のセオリツ姫」 を指します。


トヨ姫 (とよひめ)
北局の内侍で、斎名はアヤコ。九州で上・中・底のワタツミを統括する
ムナカタの娘で、クマノクスヒの母です。

 高良大社 (こうらたいしゃ)
 福岡県久留米市御井町1。 
 現在の祭神:高良玉垂命、八幡大神、住吉大神  合祀:豊比淘蜷_

 香春神社 (かわらじんじゃ)
 福岡県田川郡香春町大字香春733。 
 現在の祭神:辛國息長大姫大目命、忍骨命、豊比賣命


■湛えかぬ (たたえかぬ)
タタフ(湛ふ)は 「とどめる・溜める」 が原義で、カヌは 「できない」 の意です。
ですから 「内に留めておけない・腹に据えかねる・こらえきれない」 などの意となります。

 ★かぬ (兼ぬ:“できない” の意)
 このカヌは、カヌ(▽叶ぬ)+ヌ(否定)の短縮形で、カナワヌ(叶わぬ)と同義と思います。

  “〜しかねない” と言う場合は、カヌ(▽叶ぬ)の二重否定で、
  「叶わぬとはいえない・ありえる」 の意になります。


功 (いさおし)
イサフ(勇ふ)+シク(如く) から ‘ク’ を除いたク語法で、イサフは イサム(勇む)の変態です。
「高まるさま・栄えるさま・優れるさま・至るさま」 などが原義で、イブキ(息吹)と同義です。


天が下 (あめがした)
いわゆる テンカ(天下) で、「地・地上・世」 と同義です。
アメは “陽陰・日月” で、「日月の下・日月のめぐる下」 の意かもしれません。

 

【概意】
「モチコ・ハヤコの姉妹は休め」 と暇を与えて、内宮はトヨ姫を召す。
姉妹が北の局に退いてそれを嘆くと、ソサノヲはこらえきれず、
剣を持って出て行こうとするのをハヤコが押しとどめて、
「成功すれば天下は我らのもの。」 〈だから今は辛抱すべし〉

 

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 はなこきたれは ほこかくす みぬかほすれと うちにつけ
 あるひたかまの みゆきあと もちこはやこお うちにめす
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 ハナコ来たれば 矛 隠す 見ぬ顔すれど 内に告げ
 ある日タカマの 御幸後 モチコ・ハヤコを 内に召す
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ハナコ

■矛・戈・鉾 (ほこ)
ツルギ(剣)と同じです。ソサノヲが手に持っていた剣をいいます。
ホコは ホグス(解す)の母動詞 “ホク” の名詞形です。


■内 (うち)
内宮」 の略です。皇后のセオリツ姫を指します。


タカマ

 

【概意】
ハナコがやって来たので剣を隠す。
ハナコは見て見ぬふりをしたが、皇后に報告する。
皇后はある日、君がタカマに御幸された後、
モチコとハヤコを内宮に呼ぶ。

 

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 ひにむかつひめ のたまふは なんちらゑとか みけひえて
 つくしにやれは つくみおれ たなきねはとる をはちちに
 めはははにつく みひめこも ともにくたりて ひたしませ
 かならすまてよ ときありと むへねんころに さとされて
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 日に向つ姫 宣給ふは 「汝ら姉妹が 御気冷えて
 ツクシに遣れば 噤み下れ タナキネは取る 男は父に
 女は母に付く 三姫子も 共に下りて 養しませ
 必ず待てよ 時あり」 と むべ懇ろに 諭されて

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日に向つ姫 (ひにむかつひめ)

宣給ふ (のたまふ)
ノツ(▽宣つ)+タマフ(給ふ)の短縮で、「言う・述べる」 の尊敬語です。
辞書は “宣ふ” と宛てています。


■御気 (みけ)
ケ(気)の尊敬語です。「君に対して持つ気持ち」 をいいます。


■噤み下る (つぐみおる)
ツグム(噤む)+オル(下る) の同義語の連結で、「(身を) 低める・すぼめる・ひそめる」 などの意です。

 ★噤む (つぐむ)
 ツク(漬く)+クムの短縮で、ツクは ツクバフ(蹲ふ)の母動詞、クムは クグム(屈む)の母動詞。
 両語とも 「下げる・低める・小さくする・すぼめる・沈める」 などが原義です。


■タナキネ
モチコが生んだアマテルの長男 ホヒ の斎名です。
6アヤではタナヒトと紹介されていました。

 さきにモチコが 生む御子は ホヒの尊の タナヒトぞ 〈ホ6-4〉

“○○ヒト” の斎名は皇位継承予定者のみに付される特別なものです。
この斎名の変更は、セオリツ姫がオシホミミ(斎名オシヒト)を生んだため、
ホヒの皇太子の身分が剥奪されたことを意味します。


■三姫子 (みひめご)
ハヤコが生んだ タケコタキコタナコ の三つ子の姫です。

 他の文献では、タケコは 田心姫・多紀理比賣命
 タキコは 多岐都比売命・湍津姫、タナコは 市杵嶋姫命 などと記されます。


■必ず (かならず)
カヌ(兼ぬ)+ナラズ の短縮で、「かなわぬ/できぬ ではならず」 というのが原義で、
「なんとかして・どうにかして・どうあろうと」 などの意を表します。


むべ (宜)

ねんごろ (懇ろ)

 

【概意】
日に向つ姫が仰せになるは、
「汝ら姉妹の、君への気持ちは冷めており、九州に遣るので蟄居いたせ。
男は父に、女は母に付くものゆえ、タナキネはこちらで預かる。
3姫子も連れ下りて養育されよ。短気を起こさず必ず待てよ。赦される時は来る。」
と懇切丁寧に諭されて、

 

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 つくしあかつち これおうけ うさのみやゐお あらためて
 もちこはやこは あらつほね おけはいかりて ひたしせす
 うちにつくれは とよひめに ひたしまつらし
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 筑紫アカツチ これを受け ウサの宮居を 改めて
 モチコ・ハヤコは 新局 置けば怒りて 養しせず
 内に告ぐれば 「トヨ姫に 養し纏らし」

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■ウサの宮居 (うさのみやゐ)
ウサは九州の地名で、“宇佐・宇沙・菟狭” 等に記されます。
ミヤヰ(宮居)は ミヤ(宮)と同じで、「中心・中枢・本拠」 などを意味します。
これは 「アカツチ宮」 の別名です。


■新局 (あらつぼね)
「新たな区画・新たな部屋」 などの意です。 ▶局


■養し纏らし (ひたしまつらし)
ヒタス(養す)マツル(纏る)+シ(使役) で、
ヒタス・マツルはどちらも 「付いて用を足す・世話する」 などの意です。
‘シ’ は 使役のスの命令形で、“せ・させ”  と同じです。
ですから 「世話させよ・面倒見させよ・養育させよ」 の意となります。

 トヨ姫は九州の地守ムナカタの娘でした。宇佐神宮と宗像大社の両方が3姫を祀るのは、
 ウサの宮居に派遣されたヨ姫が 3姫を養育したことに由来するものと考えられます。

 宇佐神宮 (うさじんぐう)
 大分県宇佐市南宇佐2859。 
 現在の祭神:八幡大神、比売大神、神功皇后
 ・比売大神は 宗像三女神 (多岐津姫命、市杵嶋姫命、多紀理姫命) をいう。
 ・主神は八幡大神の応神天皇であるが、実際に宇佐神宮の本殿で主神の位置である
  中央に配置されているのは比売大神であり、なぜそうなっているのかは謎とされる。

 宗像大社 (むなかたたいしゃ)
 福岡県宗像市田島/大島。 
 現在の祭神:田心姫神、湍津姫神、市杵島姫神

 

【概意】
九州のアカツチはこれを受けてウサの宮居を改築し、
モチコ・ハヤコを新局に置けば、怒って3姫子の世話をせず。
内宮に報告すれば、「トヨ姫に養育させよ」 と。



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 さすらなす ふたさすらひめ いきとほり
 ひかはにいかり なるおろち
 よにわたかまり こくみらも つかえてしむお うはひはむ
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 さすらなす 二さすら姫 憤り
 ヒカハに怒り 成る折霊
 弥にわだかまり コクミらも 支えてシムを 奪ひ蝕む
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■さすら ■さすらなす ■さすら姫 (さすらひめ)
サスル(摩る・擦る)の名詞形で、「逸れること・すれる/ずれること」 を意味します。
“さすらなす” は 「ウサの宮居からそれて他へ行くこと」 を意味しますが、
“さすら姫” は 「心がそれた姫・心がすれた姫・あばずれの姫」 という意です。


憤る (いきどほる)

ヒカハ・ヒカワ (卑側・▽卑郷)
いかなる理由によるものか、モチコとハヤコはヒカハに向かったのです。


■折霊・愚霊 (おろち)
「折れ曲った霊・邪霊」 という意です。これは生きている人間が放つ、羨み・妬み・恨み
などの曲った想念が “生き霊” に転じたものです。生き霊は “同類相求む” の法則により、
同種の念を放つ人や動物に寄り付いて、干渉・支障を働きます。
ハハ(▽蝕霊)・イソラ(▽逸霊)・ハタレ(▽外れ) などとも呼ばれます。
これが具象した生き物が、曲がりくねって下を這う オロチ(蛇) と考えられているようです。

 当講座では 「邪霊」 をいう場合には “折霊”、「へび」 をいう場合には “蛇” と表記します。
 邪と蛇、どちらも “ジャ” と読むところが なんとも意味深です。


■弥にわだかまる (よにわだかまる)
「いよいよ屈曲する・ますます折れ曲る」 などの意です。

 ★弥 (よ)
 イヨ(弥)の短縮形です。イヤ(弥)、ヤ(弥) ともいいます。

 ★わだかまる (蟠る)
 ワツ+カマル の同義語連結で、ワツは ワダ(曲)の母動詞、
 カマルは カガマル(屈まる)の母動詞です。
 ですから 「曲って屈まる・屈曲する」 という原義です。


■コクミら
ヒカワに流刑となった “シラヒト” と “コクミ”、またその2人を臣として召し入れた、
サホコチタル国のマスヒト “アメオシヒ” を指します。


支ふ (つかふ)
ツク(付く・着く)+アフ(合ふ) の短縮で、
「付き添う・付着する・いっしょになる」 などの意です。


■シムを奪ひ蝕む (しむおうばひはむ)
シム(▽精・▽霊)は 「霊・神霊・魂魂・精神・心」 などと同義です。
ウバフ(奪ふ)は 「そらす・曲げる」 の意。ハムは ハユ(蝕ゆ)の変態です。
ですから 「心をねじ曲げてむしばむ」 という意となります。

 

【概意】
ウサを離れたあばずれ2姫は憤り、その怒りはヒカワでついに折霊へと転じる。
いよいよ折れ曲れば、コクミらも一緒になって、己の心をねじ曲げて蝕む。

 

 

本日は以上です。それではまた!

 

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