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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第43回 [2023.9.14]

第九巻 八雲打ち 琴つくる文 (1)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 やくもうちことつくるあや (その1)
 八雲打ち 琴つくる文 https://gejirin.com/hotuma09.html
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 やくもうちことつくるあや
 あらかねの つちにおちたる さすらをの
 あめのおそれの みのかさも ぬかてやすまん
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 八雲打ち 琴つくる文
 あらかねの 地に堕ちたる さすら男の
 雨の虞の 蓑・笠も 脱がで休まん

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■八雲 (やくも)
本文中で説明します。


■あらかねの地 (あらかねのつち)
あらかねの” は ツチ(土・地) にかかる枕詞です。
この場合 ツチ は、ソサノヲが身を置いた上流社会に対して、「下層社会」 を意味します。

 ★あらかね
 アル(粗る)+カヌ(兼ぬ) の名詞形で、アル は 「下がる・落ちる」 の意。
 カヌ は コル(凝る) の変態で、「凝り固まる」 の意です。これは 天地創造の過程
 「下って凝ったもの」 を表し、ツチ(土・地) の換言です。
 なお このアラカネは、「粗鉱」 を意味する アラカネ(粗金) とは別です。

 ★つち (地・土)
 ツヅル(綴る) の母動詞 “ツツ” の名詞形で、ツツ は トヅ(綴づ・閉づ) の変態です。
 「合わせ・まとまり・凝り」 などが原義で、重い陰が 「下って凝ったもの」 を意味します。


さすら男 (さすらを)

虞 (おそれ)
この オソレ は オス(推す) が母動詞で、本来は 「推測・予期・備え」 などの意です。
今日では この オソレ(虞) と、オソレ(恐れ・畏れ) の区別が無くなっています。


■脱がで休まん (ぬがでやすまん)
「脱がずに休むのだろう」 という意です。
次の段に出てきますが、これはソサノヲが旅の道中に行っている 非道・悪行 に対する
世間の目をはばかってのことです。

 

【概意】
八雲打ち 琴つくる文
あらかねの地に堕ちたるさすら男は、
雨の備えの蓑・笠も、脱がずに休むことだろう。



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 やともなく ちにさまよひて とかめやる すりやわことに
 たとりきて ついにねのくに さほこなる ゆけのそしもり
 つるめそか やとにつくむや しむのむし

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 宿もなく 千にさまよひて 咎め破る すり・やわ事に
 辿り来て ついに根の国 サホコなる 弓削のソシ守
 ツルメソが 屋戸に噤むや 血の虫

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■宿・屋戸 (やど)
ヨド(淀・澱) の変態で、「よどむこと/所・留まること/所・停滞・滞在」 などが原義です。

 
■千に・散に (ちに)
“千々に” (ちぢに) と同じで、「さんざん・あちこちに」 などの意です。 ▶千々


さまよふ (さ迷ふ・彷徨ふ)
サ(再・▽更)+マヨフ(迷ふ) で、サ(再) は サラ(更) の短縮。
マヨフ(迷ふ) は マフ(回ふ・舞ふ)+ヨフ の短縮で、ヨフ は ヨル(揺る) の変態。
いずれも 「回る・巡る・往き来する・回転する・改まる」 などが原義です。


■咎め破る (とがめやる)
トガム(咎む)+ヤル(破る) の連結で、両語とも 「反り曲る・それる・外れる」 などが原義です。
これは次の “すり”  “やわ事” にかかります。

 ★咎む (とがむ)
 トク(解く退く)+カム の短縮で、カム は カル(離る) の変態です。
 両語とも 「離れる/離す・逸れる/逸らす・曲る/曲げる・外れる/外す」 などが原義で、
 「反する・反対する・背く・報復する・邪魔する」 などの意にも使われます。


■すり (摩り・擦り・掏り)
スル(摩る・擦る掏る) の名詞形で、「それ/そらし・ずれ/ずらし・外れ/外し」 などが
原義です。この場合は 「すれた行い・外れた行い・非行・非道」 などをいいます。

 泥棒の スリ(掏摸) も同源で、人から金品を 「逸らす者・外す者」 を意味します。


■やわ事 (やわごと)
「やばい事・やましい事・病んだ業・闇の稼業」 などの意です。

 ヤワ は ヤフ の名詞形で、ヤフ は ヤム(病む)・ヤル(破る) の変態。
 これもやはり 「反る・逸れる・曲る・外れる」 などを原義とします。
 疚しい の ヤマ、やばい の ヤバ、やぶ医者 の ヤブ、ヤボ(野暮)
 ヤミ(病み・闇)
などの変態です。


辿る (たどる)
タヅヌ(尋ぬ・訪ぬ) の変態で、「往き来する・めぐる・回る・行く」 などが原義です。

 タツ+トル の短縮で、タツ は ツツ(伝つ) の変態、トル は トフ(訪ふ) の変態。
 いずれも 「往き来する/させる・巡る/巡らす・つたう・探る」 などが原義です。


根の国 (ねのくに) ■サホコ

弓削 (ゆげ)
「弓を造る者・弓に弦を結ぶ者」 をいいます。
ユカリ(縁) の母動詞 ユク(▽結く) の名詞形で、「合わせ・結び」 が原義です。

 ★弓 (ゆみ)
 ユヒ(結ひ) の変態で、「(両端を) 結んだ物」 が原義です。


■ソシ守 (そしもり:▽疎守)
ソシ は ソス(▽疎す) の名詞形で、「離れ・外れ・端・果て・辺境」 を表します。
「辺境の守り」 の意で、サキモリ(防人)ヒナモリ(夷守)ウトモリ(疎守) などの換言です。

“弓削のソシ守” は、「普段は弓の製作を業としながら、辺境の警備に当たる下級役人」
をいうものと考えます。

 日本書紀第八段の一書(4)に、素戔鳴尊が新羅国の曾尸茂梨(ソシモリ)のところに
 居るという話がありますが、これは ホツマの7アヤの記 と、ここの記をつなぎ合せて
 むりやり創作したものと考えられます。

  素戔鳴尊所行無状、故諸神、科以千座置戸而遂逐之
  是時、素戔鳴尊、帥其子五十猛神、降到於
新羅国、居曾尸茂梨之處 〈日本書紀8(4)〉


■ツルメソ (▽弦召)
“弓削のソシ守” の個人名だと思います。
弦(つる) を張る者」 の意で、ユゲ(弓削) の言い換えです。
メソ は メス(見す・召す) の名詞形で、メス は マス(交ず) の変態です。


噤む (つぐむ)

霊の蝕・血の虫 (しむのむし)

 

【概意】
宿もなく、あちこちさまよいながら、
曲りそれた非行・悪行にたどり来て、ついに根の国・サホコの国へ。
弓削の鄙守 ツルメソの家に潜伏すれば、騒ぎ出す血の虫。



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 さたのあれをさ あしなつち そをのてにつき やめうめと
 おひたちかぬる かなしさは

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 サタの粗長 アシナツチ 添のテニツキ 八姫生めど
 生ひ立ちかぬる 悲しさは

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■サタ (狭田・佐太・佐田・佐陀)
ヒカワ(鄙郷) の行政区画としての正式名と考えています。
後にこの地域の領主となる オホナムチ が “サタ” と呼ばれているからです。

・アユミテル姫に シタテルと サタのタカ姫は タカテルと 授くる 〈ミ逸文〉
サタは弥増す みこ みまご 百八十富める ヲヲナムチかな 〈ミ逸文〉


■粗 (あれ) ■粗長 (あれをさ)
幾つかの集落を合せた行政区画を アレ(粗) といい、その長を アレヲサ(粗長) といいます。
アレ(粗) が集まって アガタ(県) を成し、アガタ(県) が集まって クニ(国) を成し、
クニ(国) が集まって 国家 を形成します。

 織機具で、経糸を大まかに治める筬を アレヲサ(粗筬) といいますが、
 これを国家の行政機構になぞらえたものです。
 ヲサ(長) も織機具の ヲサ(筬) から来ており、「おさえ・束ね・治め」 を意味します。


■アシナツチ
サタの粗長 の名です。記紀には 足名椎命/脚摩乳 と記されます。
後に判明しますが、アカツチ の弟です。

 アシ(足)+ナ(=の)+ツチ(▽治) で、アシ(足) は 「下・末・端」 の意で サタ の換言。
 ツチ は 「治め・治者」 の意で、「サタの治者」 というのが、この名の意味と考えます。
 つまり “サタの粗長” を言い換えてるだけです。


■添 (そを)
ソユ(添ゆ) の名詞形で、ソヱ(添ゑ) の変態と考えます。
つまり 「添う者・妻」 の意です。


■テニツキ
アシナツチ の妻の名です。記紀には 手名椎命/手摩乳 (てなづち) と記されます。

 テ は テテ(父) の略。ツキは “付き”。
 「父に付く者」 つまり 「妻・母」 を意味すると考えます。


生ひ立つ (おひたつ)

■かぬる (兼ぬる)
カヌ(兼ぬ) の連体形で、今風には “兼ねる” です。


■悲しさ (かなしさ)
カナシ(悲し) の名詞形で、「どうにもできないさま」 を原義とし、
「自分の非力さを思い知るさま」 を表します。

 

【概意】
サタの粗長アシナツチは、妻のテニツキと8姫を生めど、
育て上げることができない悲しさは、



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 ひかわのかみの やゑたには つねにむらくも たちのほり
 そひらにしける まつかやの なかにやまたの おろちゐて
 ははやかかちの ひとみけと つつかせらるる ななむすめ

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 ヒカワの上の 八重谷は 常にむら雲 立ち昇り
 背に茂る 松・榧の 中に八岐の 蛇 居て
 ハハやカガチの 人身供と ツツガせらるる 七娘

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■ヒカワの上 (ひかわのかみ:鄙郷の上/簸川の上)
ヒカワ(鄙郷) を治める 粗長 は アシナツチ ですが、その 「上流にある者」 をいいます。
それは サホコ国のマスヒトである アメオシヒ、またその臣となった シラヒトとコクミ
また義兄のマスヒトを慕って来た 二さすら姫 です。さらに彼らの上には 折霊 が君臨します。
そしてこれを 簸川の上流 の意に イメージ誘導 しています。 ▶簸川

モチがクラ姫を カンサヒの子の アメオシヒ 妻わせ典侍が 兄となし
 父マスヒトの 纏り継ぐ 
シラヒト・コクミ この祝 半ば清を得て
 “さすらひ” の ヒカワに遣るを 
マスヒトの 我が臣となす 
〈ホ7-3〉
・さすらなす 
二さすら姫 憤り ヒカハに怒り 成る折霊
 弥にわだかまり コクミらも 支えてシムを 奪ひ蝕む  
〈ホ7-3〉


■八重谷/▽汚穢谷 (やゑだに)
折霊らが支配する 「汚穢の区画」 の意で、
これを 「幾重にも連なる谷」 に イメージ誘導 しています。

 ★八重・▽汚穢 (やゑ)
 この ヤヱ は、“やわ事” の ヤワ、ヤレ(破れ)、ヤミ(病み)、ヲヱ(汚穢) などの変態で、
 「曲り外れるさま」 を意味します。

 ★谷 (たに)
 「谷間・区分・区画」 を意味します。
 タル(垂る) の変態 “タヌ” の名詞形で、「沈むさま・凹むさま・溝・堀」 が原義です。
 堀 は 川 と同じですから、地の 「分け目・仕切り・境界」 となります。 ▶川


むら雲 (むらくも)

背 (そびら)
ソビヱ(聳え) の変態で、「高み・上層・頂・トップ」 を意味します。


■松 /▽曲 (まつ) ■榧/▽変 (かや)
マツ は マヅシ(不味し・貧し) の母動詞 マツ(▽曲つ) の名詞形、
カヤ は カユ(変ゆ) の名詞形です。いずれも 「曲り・逸れ・外れ」 が原義です。
これをまた 「松と榧の木」 に イメージ誘導 しています。


■八岐の蛇 /▽病曲の折霊 (やまたのおろち)
「病んで曲る折霊」 を 「8つに分岐する蛇」 に イメージ誘導 しています。
▶やまた ▶おろち


■ハハ ■カガチ
どちらも 「邪霊」 の別名ですが、これを蛇の 「ハハ」 と 「カガチ」 に イメージ誘導 しています。
ヤマタノオロチが親分で、ハハやカガチは子分という感じです。

 ★ハハ (▽蝕)

 ★カガチ
 カガム(屈む) の母動詞 “カグ” と、カヅク(潜く) の母動詞 “カツ” が連結した
 “カガツ” の名詞形で、「折れ曲がって低まるさま」 を意味し、「蛇」 や 「邪霊」 の別名です。


■人身供 (ひとみけ)
「人身御供・いけにえ・犠牲」 です。 ▶人身御供

 ★ケ (食/供)
 クフ(食ふ) の名詞形 クヘ/クエ の発音短縮で、
 「食う物」 の意と、「くべる物・くばる物・食わせる物」 の意があります。
 ここでは後者で、「供え物・捧げ物」 の意です。


ツツガ (恙)

■せらるる
セ(‘する’ の未然形)+ラル(受身) の連体形で、今風には “される”  “させられる” です。

 

【概意】
簸川の上流の八重の谷は、常にむら雲が立ち昇り、
山頂に茂る松や榧の中に 八岐の蛇が居て、
7人の娘は蛇どもの犠牲となっていた。

【イメージ誘導やぶり】
ヒカワの御上が支配する汚穢の区画は、常に暗雲が翳を落とし、
上層で権力を濫用する よこしまな者たちの中に、病んで曲った折霊が入り込み、
7人の娘は邪霊どもの犠牲となっていた。


 “邪霊の犠牲となる” とは、「邪霊に取り入られてハタレの仲間になる」 ということです。



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 のこるひとりの いなたひめ これもはまんと
 たらちねは てなてあしなて いたむとき
 そさのみことの かんとひに あからさまにそ こたゑけり

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 残る一人の イナタ姫 これも食まんと
 タラチネは 手撫で足撫で 痛む時
 ソサの尊の 上問ひに あからさまにぞ 答えけり

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■イナタ姫 (いなたひめ)
アシナツチとテニツキの 8人の娘のうち、邪霊に取り込まれていない唯一の姫です。
記紀には 櫛名田比売(くしなだひめ) / 奇稲田姫(くしいなだひめ) と記されます。

 イナタ は イヌ(▽結ぬ)+ナツ(▽懐つ) の短縮 “イナツ” の名詞形で、
 「結び・合わせ・契り」 が原義。これは イイナヅケ(許嫁) と同義です。


■食む/蝕む (はむ)
「邪霊が蝕む」 の意で、邪霊が取り憑いて心が蝕まれ、ハタレになることをいいます。
それを 「蛇が食べる」 の意にイメージ誘導しています。


タラチネ

■痛む・悼む (いたむ)
イトフ(厭ふ) の変態で、ここでは イトホシム(愛ほしむ)イタワル(労る) と同義です。


■ソサの尊 (そさのみこと)
ソサノヲ の同義の言い換えです。
ミコト(尊) は ここでは 「皇子・親王」 を意味します。

 ★ミコト【尊・命】
 イカツ(厳つ・怒つ) の変態の  “ミカツ・ミコツ” の名詞形です。
  〈ミ・ヒ・イ・ヰ は互いによく入れ替わる〉
 「上がるさま・高まるさま・上/高にあるさま」 が原義で、ミゴト(見事) の変態です。


■上問ひ (かんとひ)
「上位者からの質問」 です。ミトヒ(御問ひ) ともいいます。
トヒ(問ひ・訪ひ) は 「さぐり・たずね」 が原義です。
 
 ★問ふ・訪ふ (とふ) ★問ひ・訪ひ (とひ)
 タム(回む) の変態で、「回る/回す・巡る/巡らす・行き来する/させる」 などが原義。
 「さぐる・さがす・たずねる」 などと同義です。


■あからさま
アカル(明る)+サマ(様・▽染) で、「見通せるさま・覆うものの無いさま」 をいいます。
 
 ★さま・ざま (様・状・態) ★しま (縞)
 ソメ(染め)、シミ(染み) などの変態で、「何かに染まる状態」 が原義です。

 

【概意】
残る一人のイナタ姫も、今にも蛇が餌食にしようとしていた。
父母は姫の手を撫で 足を撫でて愛おしむ時、
ソサの尊の御問いに対して、あからさまに答えるのであった。



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 ひめおゑんやと いやといに みなはたれそと うらとえは
 あめのおととと あらはれて ちきりおむすふ いなたひめ

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 「姫を得んや」 と 礼問いに 「御汝は誰ぞ」 と 心問えば
 陽陰の弟と 表れて 契りを結ぶ イナタ姫

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■礼問い (いやとい)
「敬いのある問い・うやうやしい問い」 の意です。
イヤ(礼)ウヤ(礼)、ウヱ(上)、ウワ(上) などの変態です。


■御汝 (みな)
ミ(御・▽上)ナ(汝) で、ナンヂ(汝) の尊敬語です。


■心問ふ (うらとふ)
ウラ(心・裏・占) は 「中心・核心・奥・こころ」 などを表します。
トフ(問ふ・訪ふ) は 「めぐる・たずねる・探る」 などが原義です。
ウラナフ(占ふ) と原義は同じです。ここでは 「本質に触れる・核心に迫る」 などの意です。


陽陰 (あめ)

■表る・現る・顕る (あらはる)
アカル(明る) と同義で、「通る・見通せる」 という意です。

 アル+ハル(晴る) の短縮で、アル は アラ(新) の母動詞です。両語とも
 「回る・往き来する・通る・改まる」 などが原義で、この場合は 「通る」 の意です。

 

【概意】
「姫を貰えないだろうか」 という礼ある問いに対し、
「貴方はどちら様なるぞ」 と核心に触れれば、
大御神の弟と判明し、契りを結ぶイナタ姫。



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 やめるほのほの くるしさお そてわきさきて かせいれは
 ほのほもさめて こころよく わらへのそての わきあけそ

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 病める炎の 苦しさを 袖脇裂きて 風入れば
 炎も冷めて 快く 童の袖の 脇明けぞ

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■病める炎 (やめるほのほ)
「邪悪な熱」 の意で、オコリビ(瘧火)ミノホ(三の火) の換言です。
邪霊の干渉を受ける者が苦しむという 「日々三度の発熱」 をいいます。

 したがってイナタ姫はすでにこの時点で、邪霊の影響を
 かなり受けているということになります。


■袖脇・▽袖分き (そでわき)
衣服の 「身頃と袖の分かれ目」 をいいます。 ▶身頃 ▶画像


■童 (わらべ・わらんべ)
「髪がバラバラの者」 という意で、「髪を結う前の子供」 をいい、
ワラワ(童)、ワッパ(童)、ワラシ(童衆) などとも呼ばれます。

 ワラ は バラ(散) の変態、ヘ は ハエ(生え) の発音短縮です。


脇明け・▽分き開け (わきあけ)
身頃と袖の分れ目を 「切り裂いて開けること」 をいいます。

 

【概意】
邪悪な熱の苦しさを、袖脇を裂いて風を入れれば、熱も冷めて快く。
これが童の袖の “脇明け” の起りである。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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