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徹底解説ほつまつたえ講座 改訂版第10回 [2023.7.20]

第三巻 一姫三男生む殿の文 (1)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 ひひめみをうむとののあや (その1)
 一姫三男生む殿の文 https://gejirin.com/hotuma03.html
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 ひひめみをうむとののあや
 もろかみの たかまにまつり はかるのち
 つはものぬしか ふたかみの ひひめみをうむ とのゐつつ
 とえはかなさき こたふるに
―――――――――――――――――――――――――――――
 一姫三男生む殿の文
 諸守の タカマに政 諮る後
 ツハモノヌシが 二尊の 一姫三男生む 殿五つ
 問えばカナサキ 答ふるに
―――――――――――――――――――――――――――――

■諸守 (もろかみ)
「多くの守・諸臣・諸侯」 などの意です。

 ★諸 (もろ)
 モル(守る・盛る)の名詞形で、「合わせ・寄り・群れ」 などを意味します。

 ★かみ (上/守/尊/神)


タカマ (高天)

■政諮る (まつりはかる)
「国家の政治について相談する」 という意です。
ここでは 「国や民の治め・政治」 を言うため、“政” と宛てています。

 ★まつり (纏り・▽政)
 マツル(纏る)の名詞形で、「まとめ・治め・手当・処置・ケア」 などを意味します。
 用途の広い言葉で、例えば、経糸と緯糸を編んで機(布)にまとめることも “まつり” なら、
 人間社会の様々な問題をうまく取りまとめることも “まつり” です。

 ★諮る (はかる)
 ハカルには「計る・測る・量る・図る・謀る・諮る・議る」などの漢字が宛てられ、
 それぞれの意味がありますが、いずれも原義は 「合わす・比べる」 です。
 この場合は 人・心・会議 などに 「合わす・かける・ぶつける」 などの意となります。


■ツハモノヌシ・ツワモノヌシ
トヨウケ(斎名タマキネ)の子で、イサナミの弟です。

 
 クニトコタチ─クニサツチ┐
   (I)     (II)  │
 ┌───────────┘
 ├トヨクンヌ─ウビチニ┬ツノクヰ─オモタル
 │ (III)    (IV) │  (V)   (VI)    ┌クラキネ
 │          │           ├ココリ姫
 │          └アメヨロツ┬アワナキ─┴イサナキ
 │          (養子)↑  └サクナキ    │(VII)
 │             └─────┐     │   
 ├ハコクニ─東のトコタチ┬アメカガミ─アメヨロツ  │   
 │      (初代)  │             │  
 └ウケモチ       └タカミムスビ─トヨケ┬イサナミ
               (2〜4代)   (5代)├ヤソキネ
                        ├カンサヒ
                        └ツハモノヌシ


■二尊 (ふたかみ)
イサナキとイサナミの夫婦の君主」 をいいます。


■殿 (との)
トノ(殿)は ツノ(角)の変態で、「突き立つさま・突出するさま」 を原義とし、
御上(おかみ)の政庁舎」 や 「高貴な人の建物」 などをいいます。
この場合は 「御上が子を生む建物・御上の産殿」 です。


■カナサキ
捨てられたワカ姫を拾って廣田の宮で育てた人物で、二尊の重鎮です。
イサナキの命により ツキスミ(九州) の統治の元締となっており、
そのため別名が スミヨシ (ツキスミ寄せる者:九州を束ねる者の意) です。
古事記には 宇都志日金折命(うつしひかなさく) と記されています。
その先祖は船を発明したシマツヒコで、代々船に関わってきた一族です。

 シマツヒコ─オキツヒコ─シガ─?─?─?─カナサキ

 

【概意】
一姫三男生む殿の文
諸守がタカマで政を諮った後、ツワモノヌシが、
「二尊は1姫と3男を生んだが、なぜ産殿は5つある?」 と問えば、
カナサキが答えて、

 

―――――――――――――――――――――――――――――
 むかしふたかみ つくはにて みめくりとえは
 めかみには なりなりたらぬ めもとあり
 をかみのなりて あまるもの あわせてみこお うまんとて
 みとのまくはひ なしてこお はらみてうめる なはひるこ
―――――――――――――――――――――――――――――
 昔 二尊 筑波にて 身周り問えば
 女尊には 生り成り足らぬ 陰没あり
 男尊の成りて 余るもの 合わせて御子を 生まんとて
 みとの交ぐ合ひ なして子を 孕みて生める 名はヒルコ
―――――――――――――――――――――――――――――

■筑波 (つくば)
筑波山麓のイサ川端のイサ宮で二尊は結ばれて、夫婦一対の国君となり、
その名もイサナキ&イサナミとします。“イサ” の意味は 「結」 です。
ツクバは ツクハナル(付く離る)という意味なのですが、これについては
ミカサの “アワ歌のアヤ” で語るつもりです。

・方壺の 西南の筑波の イサ宮に
 うなずき編みて イサナキと イサナミとなる       〈ホ2-4〉
・五代タマキネの イサコ姫 七代の尊の タカヒトと
 タカヒの西南の ツクバ山 イサ川端なる 宮に居て
 うなずき編みて 木実合ひて 名もイサナキと イサナミの 〈ホ28〉


■身周り (みめぐり)
「身体まわりのようす」 をいいます。


陰没 (めもと)
メ(陰・女)+モト(▽没) で、モトは モツ(没)・ボツ(没)の変態です。
「陰の凹み・女陰」 をいい、“みほと” とも呼ばれます。

 なぜ女は凹んでいるのかと問われれば、「天地創造の時に軽い陽は上昇して、
 重い陰は下降したからだ」 と、アマテルは答えるんじゃないかと思います。笑


御子 (みこ)
さきに中央政府の皇統が代嗣不在で断絶し、国家存亡の危機に瀕したという
記憶から、二尊は代嗣御子が生まれることの重要性を骨身に染みて感じています。


■みとの交ぐ合ひ (みとのまぐはひ)
「陽陰/男女の交合」 をいいます。ミトは ミツ(見つ)の名詞形で、「合わせ」 が原義ですが、
この場合は 「2つ合せて1つとなるもの」をいい、 「対・陽陰・男女・凹凸」 などを表します。

 ★交ぐ合ひ  (まぐはひ)
 マグ(▽交ぐ)+ハフ(▽合ふ) の名詞形で、「まじえ合すこと・交り合うこと」 をいいます。


■ヒルコ
二尊の第1子の姫で、ヒルコは斎名 (実名・本名) です。
二尊の新婚当時の宮である、筑波のイサ宮で生れています。
記紀では “蛭子” と記されますが、昼に生れたゆえの名ですから、
もし漢字を宛てるとすれば “昼子” が正解でしょう。

 後に一姫を 生む時に 昼なれば名も “ヒルコ姫” 〈ミ1-4〉

ワカ姫、ワカヒルメ、シタテル姫、タカテル姫、歳徳神、
年の恵みの大御守、御歳神、ニフの守 などの別名があります。

 アワナギ─イザナギ┐
          ├1.ワカ姫  (斎名ヒルコ)
          ├2.アマテル (斎名ワカヒト) 
          ├3.ツキヨミ (斎名モチキネ)
          ├4.ソサノヲ (斎名ハナキネ)
 トヨケ──イザナミ┘

 

【概意】
昔 二尊が筑波にて身の周りを問えば、
「女の身には 生り成り足らぬ陰没があれば、
男尊の成りて余るものを合せて 御子を生みましょう」 とて、
陽陰の交合をなして、孕んで生む子の名はヒルコ。


 ワカ姫の正体はヒルコだったのです。

 

―――――――――――――――――――――――――――――
 しかれとちちは すすよそほ はははみそひほ あめのふし
 やとれはあたる ちちのをゑ をのこはははの くまとなる
 みとせいつくに たらされと いわくすふねに のせすつる
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかれど父は 鈴四十穂 母は三十一穂 陽陰の節
 やどれば当たる 父の汚穢 男の子は母の 隈となる
 三年傅くに 足らざれど イワクス船に 乗せ捨つる
―――――――――――――――――――――――――――――

■しかれど (然れど)
しく(如く・若く・及く)+あれど” の短縮です。


■鈴四十穂 (すずよそほ)
スズ(鈴・▽寿)は、ここでは 「年齢」 を表します。
ホ(穂)は 「真榊が1年に伸ばす枝の長さ」 で、1穂=1年 です。

 スズ(鈴・▽寿)は ススム(進む)の母動詞 “スス” の名詞形で、
 「進展・経過・熟成・老い」 などが原義です。


■陽陰の節 (あめのふし・あわのふし)
「陽陰(日月)の区切り・陽陰(日月)の周期」 などの意ですが、
ここではそれに起因して起こる 厄年(やくどし) をいいます。
“陽陰の節” については、ホツマの1アヤに若干のヒントがあります。

 ハナキネは 五七に綴るを 姉に問ふ 姉の答えは “陽陰の節” 15330
 … … 天の回りの 三六十五回 四つ・三つ分けて 三十一なり
 月は遅れて 三十足らず まこと三十一ぞ
 しかれども 後前(=陰陽・日月)かかり 三十二日も
 粗る間うかがふ 汚穢モノを 祓ふは歌の 声余  〈ホ1−5〉

しかしながら、どういう理論・計算で 男の42歳と女の33歳が
“陽陰の節 (厄年)” に当たるのかについては説明がありません。


■やどれば当たる (やどればあたる)
ヤドルは「留まる・滞る・行動せずに居る」などを原義とし、
ここでは「よどむ・停滞する・その状態が続く」という意です。
“やどれば当たる” は 「このままでは当たる・ほおっておけば当たる」
という意味になります。そのため “宿る” と宛字するのを避けています。

 
汚穢 (をゑ・おゑ・をえ・おえ)
ヲヱ(汚穢)は ヲユ(瘁ゆ)の名詞形で、「よごれ・けがれ」 を意味しますが、
原義は 「曲り・ねじけ・それ・外れ・異常」 などです。
したがって反対の意味は 「直・まっすぐ・正常」 となります。


隈・曲・阿 (くま)
クマ(隈・曲・阿)は ヲヱ(汚穢)の同義語です。
やはり 「曲り・ねじけ・それ・外れ・異常」 などが原義です。

 クマは クムの名詞形で、クムは クルフ(狂ふ)の母動詞 “クル” の変態です。
 またクマは クモ(雲)の変態です。


■慈く・傅く・斎く (ゐつく・いつく)
イツクシム(慈しむ)イトオシム(愛おしむ) などと同義で、
「大切に世話する・かわいがる・かしずく」 などの意を表します。
辞書は “傅く・斎く” と当てますが、意味は同じです。

 イ(‘沃る/居る’ の連用形)+ツク(付く・注ぐ) で、両語とも 「合わす・付く・仕える」
 などを原義とし、「心血を注ぐ・愛情を注ぐ・大事に見守る」 などの意を表します。


■イワクス船 (▽斎奇船/▽忌薬船)
イワクス船は 「栄して恵む船」 の意で、「御幸の船」 をいいます。
イワ(▽斎)は イワヒ(斎ひ・祝ひ)と同じ、クスは クス(▽奇す)の名詞形で、
両語とも 「高めること・栄すこと・照らし恵むこと」 を意味します。

イワクスにはもう一つ、イワ(▽忌)+クス(薬) の意を重ねます。
イワは ヲヱ(汚穢)の変態、クスは 「回転・改め・改善」 などを表し、
「曲りの改め・汚穢の癒し」 という意です。

つまりヒルコの汚穢を祓うために、そのモノザネとして御幸の船に乗せたというわけです。

 

【概意】
しかし <ヒルコが生れた時>、父のイサナキは40歳、
母のイサナミは31歳で、<もうすぐ> どちらも陽陰の節(=厄年)。
このまま放置すれば、女子には父の汚穢が当たり、男子は母の隈となるため、
慈しむこと3年にも足らぬが、イワクス船に乗せて捨てる。

 

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 をきなひろたと にしとのに ひたせはのちに
 ふたはしら うきはしにゑる おのころの
 やひろのとのに たつはしら めくりうまんと
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 翁 「拾た」 と 西殿に 養せば 後に
 二柱 うきはしに得る オノコロの
 ヤヒロの殿に 立つ柱 回り生まんと
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■翁 (をきな)
ヲキ(大) は 「大きなる者」 の略で、「老熟の者」 また 「上に立つ者・長・主」 を
意味します。江戸時代の 「年寄り・老中・大老」 のような 「重鎮的な存在」 をいうようです。
ここでは スミヱの翁 をいい、これはカナサキの別名です。


■西殿 (にしとの)
西宮(にしのみや)と同じです。西宮は ヒロタの宮の別名でした。

 廣田神社 (ひろたじんじゃ)
 兵庫県西宮市大社町7-7。
 現在の祭神:天照大御神荒魂 (撞賢木厳之御魂天疎向津媛命)
 第一脇殿 :住吉三前大神
 ・廣田神社は、京の都から西方にある特別に重要な神社ですので、
  中世の貴族達は 「西宮」 と別称し、当社への参拝を 「西宮参拝」、
  「西宮下向」 と称しました。

 西宮神社 (にしのみやじんじゃ)
 兵庫県西宮市社家町。
 現在の祭神:西宮大神 (蛭子神)
 ・当社の社伝では、蛭子命は西宮に漂着し、
  「夷三郎殿」 と称されて海を司る神として祀られたという。


養す (ひたす)
ヒツ(漬づ)+タス(足す) の短縮で、「付いて用を足す・親身に世話する」 などの意です。
ぴったりひっついて足す」 が原義で、ソダツ(育つ)と同義です。


■二柱 (ふたはしら)
「イサナキ&イサナミの二尊」 は “二柱” とも呼ばれます。
なぜなら鳥居の二柱は二尊をモデルとしているからです。

 ツワモノが <二尊を> 柱に比ぶ ゆえ問えば
 翁 答えて 「瓊は経 貫は潤す 矛も経 汚曲滅ぼす 二柱」
 往き来
鳥居の 二尊と 聞きて各々 ヲシテ染めけり 〈ミ3アヤ〉


■うきはしに得るオノコロ (うきはしにゑるおのころ)
うきはし(ヒタカミ国と根国の協力)によって得たオノコロ(中央政府・都)」 という意です。


■ヤヒロの殿 (やひろのとの)
二尊がうきはしに得た中央政府の都は オキツの宮(▽奥つの宮) あるいは
オキツボ(▽奥壺) と呼ばれました。オキ(▽奥)は 「中・中心」 を意味します。
“ヤヒロの殿” はその都に建てた皇殿の名です。
ヤヒロ(八紘)は 「八方に広がるさま・八方に響くさま」 を意味します。


■立つ柱 (たつはしら)
「ヤヒロの殿の中柱(なかはしら)」 を指します。“中柱” は建造物の中央に
立てる柱をいいますが、この場合は国家の都の皇殿の中柱ですから、
それは国家の中心(都)の、そのまた中心(皇殿)の、さらにその中心(中柱)を
意味します。つまり国家のど核心です。

 

【概意】
スミヱの翁が 「拾った」 と、西殿にヒルコを育てれば、
その後に二柱は、根国とヒタカミ国の協力によって得た
中央政府の都の、“ヤヒロの殿” に立つ中柱を回って生もうと、

 

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 ことあけに めはひたりより をはみきに わかれめくりて
 あふときに めはあなにえや ゑをとこと
 をはわなうれし ゑおとめと うたひはらめと
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 言挙げに 女は左より 男は右に 分れ回りて
 会ふ時に 女は 「あなにえや 愛男」 と
 男は 「わな嬉し 愛女」 と 歌ひ孕めど
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言挙げ (ことあげ)
「言葉を発すること・声を上げること」 をいいます。
“言立ち(ことたち)” “言立て(ことだて)” とも呼ばれます。

 言葉を発するのは、意思を現象させる (目に見える形として現す)
 ためですが、これについては少しあとに述べます。

 
■左 (ひだり) ■右 (みぎ)
“左” は日が昇る 「東」 の同義語、“右” は日が沈む 「西」 の同義語です。


■あなにえや/あなにゑや
「ああ麗しや・なんと素晴らしや」 というような意味です。

 アナは 「ああ・おお・わお・なんと」 などと同様の感嘆詞ですが、
 これは “はなはだし” の ハナの変態で、「至って・極めて」 の意を表します。
 ニエ(▽和/▽熟)は ニユ(▽和ゆ・似ゆ/煮ゆ)の名詞形で、
 「心に合うさま・好むさま」 また 「心が熟すさま・心が潤うさま」 を表します。
 ヤは終助詞です。

 
■愛男 (ゑをとこ) ■愛女 (ゑおとめ)
ヱは “合・会” が原義で、この場合は 「心に合うさま・好むさま」 を表します。
そのため “愛” と宛てています。
オトメは、辞書は “少女・乙女” と漢字を宛てて 「若い女・少女」 の意と説明し、
確かにその意味に使う場合もあるのですが、ここでは単純に 「女」 を意味します。

 なお、ヲトコとオトメの、“ヲ” と “オ” の違いに注意してください。これは
 “大” と “小” の関係、すなわち ウス(上下・陽陰) の関係を表すものです。


■わな嬉し (わなうれし)
ワナは アナと同様の感嘆詞ですが、アは 「陽・天・男」 に、
ワは 「陰・地・女」 に対応することに留意する必要があります。

 

【概意】
言挙げに、女は左(東)より、男は右(西)より 分れて回り、
二人が会う時に、女は 「ああ麗しや 愛しき男」と、
男は「わあ嬉し 愛しき女」と、

 

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 うたひはらめと つきみてす
 ゑなやふれうむ ひよるこの あわとなかるる
 これもまた このかすならす あしふねに なかすあはちや
―――――――――――――――――――――――――――――
 歌ひ孕めど 月満てず
 胞衣破れ生む ヒヨルコの 泡と流るる
 これもまた 子の数ならず 葦船に 流す淡路/我恥や
―――――――――――――――――――――――――――――

■月充てず (つきみてず)
妊娠期間の 「十月に充たず」という意味です。
今は十月十日(とつきとおか)といいますが、ホツマでは
女児の場合は十月、男児の場合は一年としています。

 男の子は年に 女は十月 イキス好ければ 生むも安きぞ 〈ホ16〉


■胞衣 (ゑな)
「胎児を包む膜と、それを胎盤につなぐ臍の緒」 をいいます。
また 「育成の基盤/母体」 の意味にも用います。

 ヱニシ(縁)の “ヱニ” や ヱン(縁) の変態で、「結び・結びつき・結ぶもの」 などが原義です。
 中に豆を結ぶ サヤ() みたいなものをいいます。


■ヒヨルコ
流産した子の名です。
ヒヨルは “ひ弱” と同じ意ではないかと考えてます。

 ヒヨルコの流れた理由は、言挙げの歌と柱の回り方が 陽陰の道に
 沿っていないことにありますが、それについては次回説明します。 


■泡 (あわ)
アワ(泡)は 「あぶく」 のことですが、
同時にその「淡くはかないさま」 を表現しています。


■葦船 (あしぶね)
「草で造った船」 です。はかない船です。
はかなく流れたヒヨルコを、はかない葦船で流したというわけです。
なお 記紀の記述は、ヒヨルコとヒルコを混同しているようです。

 ★葦・蘆・葭 (あし)
 アス(填す)の名詞形で、アサ(麻)の変態です。
 「栄えるさま・繁茂・鬱蒼」 などが原義で、「勢いよく生えるもの・雑草」 をいいます。


■泡方・淡路/吾恥 (あはぢ)
「泡のように淡く流れたヒヨルコの生れた場所」 を表します。
チ/ヂ(方・地・道・路)は アチコチ(彼方此方)の “チ” です。

またこれに “吾恥” の意を重ねます。
ハヂ(恥)は ハヅ(▽外づ)の名詞形で、原義は 汚穢 と同じです。

 誤りて 穢るる時に 孕む子は 必ず粗るる
 
前後(=陽陰・日月) 乱れて流る 我が恥を 〈ホ7〉

 

【概意】
歌って孕みはしたものの、十月に満たず、
胞衣が破れて生れたヒヨルコは泡と流れる。
これもまた子の数とならず、葦船に流す淡路(吾恥)や。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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