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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第30回 [2023.8.15]

第七巻 遺し文 清汚を直つ文 (4)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 のこしふみさがおたつあや (その4)
 遺し文 清汚を直つ文 https://gejirin.com/hotuma07.html
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 そさのをしわさ あちきなく のしろしきまき あおはなち
 ゐのらすみその にいなめの かんみはおれは とのけかす
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 ソサノヲ仕業 あぢきなく のしろ・しきまき 阿汚放ち
 祈らす御衣の 新嘗の 尊衣 織れば 殿 穢す
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ソサノヲ

仕業・為業 (しわざ)
シ(‘為る’の名詞形)+ワザ(業) で、「なすところ・行い・所業・しごと」 などをいいます。


あぢきなし (▽与き無し)
「あずかる者がいない・関わる者がない」 が原義です。
あづきなし”  “あぢけなし” ともいいます。

 アヂキ/アヅキ+ナシ(無し) で、アヂキ/アヅキ は アヅク の名詞形、
 アヅク は アヅカル(与る・関る) の母動詞です。


■のしろ
ノシロ は ノシル の名詞形で、ノシルは ノノシル(罵る) の母動詞です。
「わめき立てること・大声で言い騒ぐこと」 をいいます。
これはソサノヲの奇行である イサチ・オタケビ の換言です。


しきまき

■阿汚・零・溢 (あお)
アフ(零ふ) の名詞形で、アフ は アブレル(溢れる) の母動詞です。
「逸れ・外れ・こぼれ・曲り・異常」 などが原義で、ヲヱ(汚穢) の変態です。
汚穢の雰囲気を出すため “阿汚” と当て字しています。 ▶阿

 この場合 具体的には、ソサノヲから湧き出す異常者的な オーラ
 またその荒々しい形相や言葉などをいうものと思います。


■祈らす御衣 (ゐのらすみそ)
「神と交わる時のお召し物」 という意です。
イノル/ヰノル(祈る)ス(尊敬)ミソ(御衣) で、
ミソ(御衣) は ミス(見す) の名詞形、ミスは メス(召す) の変態です。

 ヰノラス は オシテ原文では ミノラス(実らす) と記されていますが、
 誤写と判断して修正しています。


■新嘗 (にいなめ・さなめ)
「一年最初の行事」 の意で、初嘗(ういなめ) ともいいます。
冬至の日に行われました。後世は 新嘗祭 と呼ばれます。

 ★嘗 (なめ・なゑ)
 ナム(▽和む・舐む・並む) の名詞形で、「合わせ・治め・纏り」 などが原義です。
 ここでは 「身に合わす事・する事・行う事」 をいい、つまり 「行事」 を意味します。


■尊衣 (かんみは)
カン(上・尊)ミハ(衣) で、「敬いの衣装・礼装」 という意です。
「神と交わる時の衣装」 をいい、つまり 祈らす御衣 の換言です。ヰンハ(斎衣) ともいいます。


■殿 (との)
この場合は 「尊衣を織る機殿」 のことで、斎衣殿(ゐんはどの) といいます。


 ★殿 (との)
 ツノ(角) の変態で、 「立つもの・高きもの・突起・突出」 などが原義です。
 (1) 突出/傑出した物や人 (2) 御上の建物、役所、政庁 (3) 2の主 をいい、
 この場合は (2) です。

 

【概意】
ソサノヲの仕業は関わろうとする者がないほど酷かった。
興奮して大声で騒ぎ、息巻いて汚穢隈を撒き散らす。
君が神と交わる時の衣装、すなわち新嘗の尊衣を織れば、
その殿をけがす。



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 これたたされて そさのをか
 ひとりかふむる ゐんはとの とつれはいかる
 ふちこまお ゐらかうかちて なけいるる
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 これ正されて ソサノヲが
 一人被る 斎衣殿 閉づれば怒る
 悉駒を 甍 穿ちて 投げ入るる
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■被る (かふむる)
この場合は 被る(こうむる・かぶる・かむる) の自動詞形で、コモル(籠もる) と同じです。


■斎衣殿 (ゐんはどの)
ヰン(斎)ハ(衣)トノ(殿) で、ヰンハ(斎衣) は カンミハ(尊衣) の換言です。
これを織るための 機殿 をいい、斎服殿(いみはたどの) と同じです。


■悉駒・太駒 (ふちごま)
子馬に対し、「りっぱに成長した馬」 をいうものと考えます。
フチ は フツ(▽悉)フト(太) の変態で、「立派・完全・一丁前」 を意味します。
記紀は “斑駒” と記し、「斑毛の馬」 と解されてますが、馬の毛色を云々する状況とは思えません。

 ★駒 (こま)
 コマ は “くるくる回る” の クル の変態で、「回すもの・動かすもの・働かすもの」 などを
 原義とし、この場合は 移動・運搬に使う 「馬」 を意味します。
 ゆえに 将棋の “駒” も、回して遊ぶ コマ(独楽) も同源です。また クルマ(車) 同義です。


甍 (いらか)
イラ+カ(処) で、イラ は イル(煎る・鋳る) の名詞形、「上/上げ・高み/高め」 が原義です。
ですから 「高い所・天井・頂・棟・屋根」 などをいいます。

 ★カ (処・箇・科)
 サク(離く裂く・割く) の名詞形 サカ(境) の略で、
 「分け・仕切り・区分・区画」 が原義。サ(▽割) とも略します。


穿つ (うがつ)
アカツ(分つ・散つ・頒つ)ワカツ(分かつ・別つ) などの変態で、
「分ける・空ける・ひらく・掘る」 などが原義です。

 

【概意】
それを正されて、一人が籠るべき斎衣殿の門戸を閉じれば、
ソサノヲは怒って 大きな馬を殿の屋根を破って投げ入れる。



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 はなこおとろき ひにやふれ
 かみさりますと なくこえに きみいかりまし
 そさのをに なんちきたなく くにのそむ
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 ハナコ驚き 杼に破れ 
 「神更ります」 と 泣く声に 君 怒りまし
 ソサノヲに 「汝 きたなく 地のぞむ」
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ハナコ
斎衣殿に一人籠って尊衣を織っていたのは ハナコ でした。
深読みしすぎかもしれませんが、このソサノヲの行動は、北の局のモチコ・ハヤコを九州に
追放する直接のきっかけとなった 「ハナコの告げ口」 に対する仕返しだったのかもしれません。

 北の局 下がり嘆けば ソサノヲが 湛えかねてぞ 剣持ち 行くをハヤコが 押し止め
 「功 成らば 天が下」 
ハナコ来たれば 矛 隠す 見ぬ顔すれど 内に告げ 
〈ホ7-3〉


■驚く (おどろく)
オドル(躍る・踊る)+オク の短縮で、オク は オゴメク(蠢く) の母動詞。
いずれも 「往き来する・回る・揺れる・震える・動く」 などが原義で、
「(心が) 揺れ動く・動揺する・動転する」 の意を表します。


杼・梭 (ひ) ■梭 (かひ)
織機で機を織る時、縦糸に緯糸を交差させるために使うシャトルです。 ▶画像

 ヒ は ヒルガエス(翻す) の ヒル の名詞形、カヒ は カエス(反す・返す・還す) の母動詞
 カフ(交ふ・替ふ)
の名詞形で、どちらも 「往き来させるもの・めぐらせるもの」 を意味します。
 カヒ (櫂・回・改) なども同源です。 

 かい【梭】カヒ 〈広辞苑〉
 → ひ(杼・梭)


■神更る (かみさる)
「神に還る・天に帰還する」 という意味です。

 ★更る (さる) ★更・新 (さら)
 この サル は サラフ(浚う・渫う・復習う) の母動詞で、
 「回る・一回りして元に返る・回帰する・帰還する・改まる」 などが原義です。
 名詞形が サラ(更・新) です。


きたなし (汚し・穢し・▽段無し)
キダ(段)+ナシ(無し) で、キダ(段) は 「わかち・区別・分別・弁別」 などをいいます。
ですから 「見分けがつかない・見境がない・分別がない・けじめがない・でたらめ」
などが原義です。この場合は 「善悪の分別もなく」 という意味です。


■地のぞむ (くにのぞむ)
この場合、クニ は  “天” に対する “地” をいい、「世・人間世界・社会」 などを意味します。

 ★のぞむ (望む・臨む)
 ノス(▽和す・乗す・載す)+ソム(染む) の短縮で、両語とも 「合ふ/合わす」 が原義。
 「見る・接する・入れる・捉える・考える」 などの意を表します。ナジム(馴染む) の変態です。

 

【概意】
ハナコは驚いて杼で負傷し、「神にもどられました」 と泣く声に
君はお怒りになり、ソサノヲに 「汝は善悪の分別もなく社会に接している。」


 
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 みちなすうたに
 あめかした やわしてめくる ひつきこそ
 はれてあかるき たみのたらなり
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 道なす歌に
 『天が下 和して恵る 日月こそ
 晴れて明るき 民の父母なり』
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■道なす (みちなす)
「道を表す・道を示す」 などの意です。


天が下 (あめがした)
 
■和して恵る日月 (やわしてめぐるひつき)
「ほどよく調えて恵みをめぐらす日と月」 という意味です。 ▶和す(やわす) ▶恵る(めぐる)


晴る・▽治る (はる)
「直る/治る・調う・調和する・穏やかになる」 などが原義で、
クマ(曲・隈・阿)・クモ(雲) による 翳り や 障り がなくなることを意味します。


明るし (あかるし)

父母 (たら)

 

【概意】
 道を示す歌に

 天の下を ほどよく調えて恵みをめぐらす 日月の如き存在こそ 
 晴れやかに調和した民を生む 父母である

 <君は日月の如くあるべし>


 このアマテルの歌はホツマツタヱの中で最も重要な歌です。
 この中の “和して恵る” は、今後さまざまに形を変えて出てきますが、
 この意味を理解してないと先に進めません。常に意識してください。

 何の見返りもなく、来る日も来る日も、ただ地球を和して恵る日と月、
 地上でこれを行うことが、臣民の上に立つ者の務めであるということです。



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 そさのをは いわおけちらし なおいかる
 きみおそれまし いわむろに いりてとさせは
 あめかした かかもあやなし
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 ソサノヲは 忌を蹴散らし なお怒る
 君 恐れまし 結室に 入りて閉ざせば
 天が下 明暗も紋無し
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■忌を蹴散らす (いわおけちらす)
「汚穢を撒き散らす」 という意です。

 ★忌 (いわ)
 イム(忌む) の名詞形 イマ(忌) の変態で、「離れ・逸れ・曲り・外れ」 などが原義です。
 「忌ま忌ましいもの」 をいい、これも ヲヱ(汚穢)アオ(阿汚) の同義語です。
 “忌” は筆者の当て字です。 ▶忌ま忌まし

 ★蹴散らす (けちらす)
 ケ(‘蹴る’の連用形)+チラス(散らす) の同義語連結で、
 「放つ・出す・ばらまく」 などの意です。足で蹴ることに限りません。


■結室 (いわむろ)
「結わえられた空間・塞がれた区画・1つしか出入口のない部屋」 などの意です。

 ★イワ (▽結)
 ユフ(結ふ) の変態 イフ の名詞形で、「結わえ・結び・締め・閉じ」 などが原義です。
 イワ(岩) の原義もこれで、“ぎゅっと締まって結んだもの” です。 ▶結わえ

 ★ムロ (室)
 ムル(群る) の名詞形で、「囲まれた空間/区画・入れ物・器・部屋・内部」 などを意味します。


■明暗 (かが)
「明暗・陽陰・日月・上下・清汚・直曲」 などを意味し、
ここでは 「明と暗・光と闇・昼と夜」 などを表します。


■紋無し (あやなし)
「模様やコントラストが無い」 という原義で、「明暗・陽陰の区別が無い」 ということです。
この場合は 「光明なき世となる・世は闇となる・いつもグレー」 というような意でしょう。

 ★文・紋・綾 (あや)
 アワ(陽陰・和) の変態で、「陽陰とその交わり」 が原義です。
 互いに鏡像関係にある 陽陰・明暗・白黒・縦横 などが 交わって生じる
 模様やコントラスト(対比)をいいます。

 

【概意】
しかしソサノヲは汚穢を撒き散らしながら、さらに怒る。
君はお恐れになり、閉ざされた部屋に入って戸を閉じれば、
地上世界に明暗の区別無し。


 “イワを蹴散らす”  “イワムロ” などは、初見の読者は 「岩を蹴散らす」 「岩室」 と
 考えるのが普通でしょう。ホツマはこういう、他の意味に読者を誘導するような
 言葉遊びが大好きで、とくにこれをストーリー上重要な場面でやります。
 その結果おおかたの読者はファンタジーの世界に誘われるのです。 ▶イメージ誘導

 

本日は以上です。それではまた!

 

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